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岸辺の旅のgenarowlandsのレビュー・感想・評価

岸辺の旅(2015年製作の映画)
3.9
失踪していた夫が幽霊として帰ってきた。夫の過去を夫婦で訪ね、近くて遠かった夫婦の溝を二人で埋めていく癒しの物語。穏やかな浅野忠信と透明感ある深津絵里の演技が秀逸でした。ホラーのひんやりした怖さもありながら、人間の温もりも同時に感じ、不思議な余韻が残りました。

此岸と彼岸の間はお彼岸になると近くなり、あちらの方々がこちらに来やすくなる季節。

全体にリズムが緩くて、人々の会話に微妙な間合いがあり、瑞希が優介と共にいる時間のズレみたいでした。瑞希がピアノ講師に適さないと指摘される理由にも瑞希のテンポの違いがあり、瑞希が此岸の岸辺にずっといたのを表していると感じました。

「区切りなんかつけない方がいい」と瑞希。
生きている者の無念、亡くなった者の未練。
その思いで、この世に戻ってくる霊。

宇宙の原理を村人に話しながら「この宇宙に生まれてきてよかった」と優介。

二人の旅は瑞希だけの夢想の旅だったのかもしれません。旅の中で知らなかった夫の優しく誠実な一面に出会います。

あの世に行けない未練は、此岸の無念が引き寄せ、その無念を晴らす旅だったのでしょう。

瑞希が口には出すけれど、彼岸に行きたがらなかったのは優介の元愛人の存在。瑞希の無念は、優介への愛憎と相まって此岸で解消しなければならなかった最大のことでした。

元愛人を演じる蒼井優の凄みと強かさは深津絵里の透明感とクセの無さを際立たせます。緊張感ある二人の会話、他のシーンの柔らかいファンタジーと異質で怖かったです。平凡な日常に現れた刺客。まばたきしないで凝視する蒼井優の不敵な笑みはまるでホラー。いちばん怖いシーンでした。

二人の旅は現実の痛みを思い出しながら美しい地に向かいます。

どこまで夢想なのかわからないのがよかったです。こういうファンタジー好きです。


お彼岸にどうぞ。
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