ぼぶ

バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)のぼぶのレビュー・感想・評価

4.7
思っていたよりも、圧倒的に渋い。玄人好み。芸術家好み。これはスルメ映画。

現実世界でもバットマンであったマイケル・キートンが、かつて『バードマン』という銀幕のヒーローだったけど、今ではその人気にも陰りが見え、奥さんとも別れて娘ともうまくいかず、自分が演出&主演の思い入れのある作品のブロードウェイ版で、何とか再起を図る…そんなお話。

きっと劇団内でぶつかりつつも助け合って、素晴らしいステージを作って…ハッピー大団円!なんだろうと思ってたら、全然意図しない方向へ突き進んでいって、ニヤニヤしてしまった。
いきなりメンバー欠けるし。笑

今作、特筆すべき点が多いのだけど、一つ目は音楽。
夢のような妄想の世界に浸る、その一瞬くらいにはベタな音楽が流れるものの、それ以外はドラムのみ、という漢気溢れる音楽采配。
しかしドラマーからすれば、太鼓と金モノだけだって、これだけバリエーション豊かに、表現や描写が出来るのだという良い例でもある。
またそれが街頭のドラマーという設定で、妄想として室内にもいたりするのだが、エンドロールですら一瞬演奏が止むと街の声が聞こえてきたりと、打ち出し方が徹底していた。

二つ目はカメラワーク&カット割り。
まず基本的に暗い。しかし非常に共感できるのが、人も空間も、華やかなのはステージ上だけであるということ。
これを極端な例ではあるが、うまく描写していた。

そしてまたほとんどのカット、シークェンスが綿々と続いていて、そこに引き込まれる。
特に圧巻なのは、人物を映さない&映す&後ろから追う、を巧みに使い分けているところ。もちろん意図的に、というところがニクい。

それ以外にも、ビルを見上げた時の陰の様子やブロードウェイの電飾の様子で、1日の経過を表現したり…鏡を利用したバードマンの表現や、バードマンのポスターを映り込ませるところ、冒頭の一瞬の挿入と後のクラゲトーク、それを啄む鳥の映像…なんかもニクい。


三つ目は内容。
思っていた以上に入り組み、暗く、哲学的な面も多かった。
でも冒頭の問いかけから(個人的に冒頭にあーいうのあるの好きなのもあって笑)、それは予見できた。
自己の存在意義、他人にどう見られ自分はどう居たいのか、愛とは?、時間の概念、色んなことを考えさせられた。

でも笑えるシーンもあるし、ナオミ・ワッツはじめ皆んな綺麗だし、TwitterやYouTubeで現代感もあるし、そんな難しく考え込まずとも楽しめはするのかも。ある意味でコメディでもある。

ただ間違いなく、観れば観るほど発見があり、考えるきっかけを与えてくれ、僕らを導いてる映画であると思う。映画好きな人にはたまらないスルメなはず。

ラストを考えると、コウモリやクモじゃなくて何故バードなのかってとこもポイントだし…それすらも、観客に投げっぱなしではなく、サムの視線をはじめ、細かい病室での違和感、などに語らせるとこが良かった。

花の香りも嗅げない鼻で、彼は最後どんな空気を嗅いだのだろう。
でも日本でも鼻っ柱を折る、と言うし…エゴと完全に見つめ合えたのかな。

そして、このラストこそが、冒頭での果たせた、皆に愛された…無知がもたらす奇跡なのだろうか。
でもこれ以上は内緒。

自分の内側ともっともっと話し合わなければ、でもそれが苦しくても自身の成長につながる、ということを教えてくれる一作。
ぼぶ

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