ぬーたん

沈黙ーサイレンスーのぬーたんのレビュー・感想・評価

沈黙ーサイレンスー(2015年製作の映画)
4.0
マーティン・スコセッシが遠藤周作の『沈黙』を撮る、聞いて驚いた。
若い頃の一時期、遠藤周作にハマっていたことがあって、それは『海と毒薬』に魅せられて以来だったが、『沈黙』も好きな小説のひとつだ。
遠藤周作が亡くなった時に、この『沈黙』と『深い河』を棺に入れたらしいが、本人も気に入っていたのだと思う。
遠藤周作の話は長くなるので…映画の方にGO。

マーティン・スコセッシの作品は好きかと問われたら、実はあまり好みではないかも。
『タクシー・ドライバー』『シャッター・アイランド』ドラマ『ボードウォーク・エンパイア 欲望の街』の3作がベスト3かな。
いずれもデ・ニーロ、レオ、ブシェミの俳優の怪演に圧倒されて価値ある作品に昇華した。
好みでない理由のひとつは暴力シーンが実に残酷で容赦ないところ。
それ、必要?と思ってしまうことも多い。

少年時代はカトリックの司祭になりたかったという監督は、『沈黙』をえらく気に入り、ずっと映画にしたかったらしい。
低予算で、台湾で撮影、セットで死者を出す、など、波乱の中の撮影だった。
ハリウッドが作る日本人の出る映画は、日本人でないアジア人が演じたり、日本自体の描き方も、中国や他のアジアと混同していたり、という事が多かったが、今作は日本人を使い忠実に日本を描いている。
そこでまずはとてもほっとして観ることが出来た。
脚本も丁寧に書かれているし、台湾撮影とはいえ、日本が舞台で日本人が出ていて、という当たり前だけど今迄のハリウッドでは考えられないことで、スコセッシ監督、やるねっと思ったわ。

フェレイラ神父をリーアム・ニーソン。
最初から主役級の俳優が出て来て期待も大。
画面に映るだけでオーラを感じる、苦し気な表情も物言う瞳も(つぶらな瞳が可愛い)ベテランの重み。
後半にかけて、今か今かと再登場を待ちわびながら観ていることに気が付く。
やはりリーアムが出ると華やかな気持ちになるから凄いな~。
この神父を追って日本に来るロドリゴ神父をアンドリュー・ガーフィールド。
カズオ・イシグロ原作の『わたしを離さないで』で観たのが最初。
それからスパイダーマンになり、有名になった。
今作では主役。神父という、派手な顔の容姿とはちょっと似合わない役だが見事に演じた。
悩み、喜び、怒り、泣く。感情が激しい役だが、しっかりと役にはまっていた。
もうひとりのガルペ神父をアダム・ドライヴァー。
『スター・ウォーズ』など色々出演してるようだが、観ていないのか記憶にないのか、印象がない。
自分の信念をしっかり持った神父を演じて良かった。
役作りなのか、頬はこけて身体も細く、リアルだった。
そして日本側はー
通訳に浅野忠信。
『ファミリー・ヒストリー』を観たけど、祖先はなかなかの波乱の人生を歩んだよう。本人はクォーターで、見かけはすっかり日本人だが、瞳の色は茶色で英語が堪能。
ハリウッド作品にも出ていて、この役もピッタリ。
当初は渡辺謙がやるはずだったらしいが、どちらでも英語が上手いので通訳の役には適任だったとは思う。
日本への案内役キチジローを窪塚洋介。
色々あったけど…
こうしてハリウッド映画にデビュー出来て、良かったなあと思う。
このキチジローは特殊な役で、観ているうちに腹立ってくるし、踏むのが早くなり過ぎでない?と突っ込みたくなるし(笑)
でもやっぱり整った顔立ちも演技も役に合っていたと思う。
モキチを塚本晋也。
この方、監督で俳優なんだ。
しかもドラマにもたくさん出ている。知らなかった。というか気が付かなかった。地味過ぎて。
モキチの演技は素晴らしかった。
モキチというキャラが一番良く理解出来たし、カッコ良いと思ったし。
演技の中に毅然とした信念と生き様が見えて泣けた。
そして井上筑後守をイッセー尾形。
自分の中ではやはり【ひとり芝居のイッセー尾形】の印象が強いから、どうしてもコミカルな感じに見えてしまって・・。
役者としての実力は分かっているものの、細かい動作もちょっと笑えたり。
この井上は、小説ではキリシタンを弾圧したが自身が元キリシタンという設定だけど、作品の中では違っていたような?
たどたどしい英語なのかと思いきや、結構難しい単語も使っていて、ちょっと不自然だったかな。
通訳や隠れキリシタンたちが英語が上手いのは分かるが、大名が上手いのは都合が良過ぎかも。
海外での評価は高かったようで、見事でした。
その他、小松菜奈、加瀬亮、片桐はいり(怖い!)洞口依子、EXILE AKIRA(何処に?)まで豪華メンバー。
日本人は全て日本人が演じた。
老僧の中村嘉葎雄が寂聴に見えた(-_-;)

スコセッシが苦手な一番の理由である、暴力シーンがやはり今作でも過剰な気がした。
いきなり生首とか更に生首とか悪夢を見そう(-_-;)
処刑も息が苦しくなった。
丁寧に作るのは良いが、159分は長くて中だるみした。
音楽が殆どなく、静かなのは『沈黙』にふさわしく良かったと思う。
しかし良く出来た作品で面白かった。


以下ネタバレです===注意

私はクリスチャンではないが、学校がプロテスタントだったので、聖書を読んだり、牧師と話したりした学生時代だった。
家族や友達にクリスチャンが居たりして、割合キリスト教自体に違和感なく育った。
今作は神の試練・沈黙を主題にしているが、日本人の多くには実感がないテーマでもあるだろう。
それだけに日本を舞台のキリスト教の貴重な作品と言える。

ロドリゴ神父のモデル、キアラ神父は83歳まで生きた。
この時代でこんな長生きも珍しい。
どんな晩年だったのかと思いを馳せる。
キアラ神父は信仰を捨てたのか否か?
答えは見つからない。
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