emily

ゴッド・ヘルプ・ザ・ガールのemilyのレビュー・感想・評価

5.0
グラスゴーのとある街。拒食症で入院中のイヴの精神状態を保つには音楽が必要。ピアノに向かって日々曲作りに励んでいる。ある日病院を抜け出して、ライブハウスでアコギ弾きのジェームズに出会い、その友人のキャシーと三人でバンドを始める。三人の友情と淡い恋が音楽に交差するレトロでキャーチーなポップミュージカル映画。

それは例えば柑橘系のアロマのような、素うどんのような、どんな精神状態でも体調でも受け入れられる物ってあると思う。映画においても気分によってチョイスするジャンルや作品は違うだろう。好きだけど、今の精神状態では「ダンサー・イン・ザ・ダーク」は観たい気分ではない。まさに今作は"適温"なのだ。深いメッセージ性がある訳でも、サスペンスフルな展開がある訳でもない。日々気づかなかったけど、「いつもの通学路に可愛い花が咲いてるよ。」みたいな些細な発見に喜ぶことの幸せを教えてくれるような、日々に優しく寄り添い、どんな時でもそこに置いておきたい、私にとってはそんな作品なのです。

70年代の香りが漂うレトロポップな色彩、青や緑のフィルターもベルセバのアルバムのジャケットを思わせる。まるでPVを見てるような、日常でありながら、ドリーミーで、良質なギターポップ、インディポップ、ネオアコ、もちろんベルセバの音楽もありたゆたうように陽気でありながら、マイナス調の日常の毒も忘れない。

女の子二人に男一人、三人の配置も絶品だ。色に色を重ねるのではなく、赤色をポイントに色を引き締め、カラフルな中に統一感がある。時折挿入される16mmで撮影された粗い画質がまた良い幻想感を与え、細部に至るまで宝石箱みたいなにがやがやしていながら、そのバランスの危うさがみずみずしい青春時代にマッチしている。

私にとってベルセバは青春であり、大好きなバンドは沢山あるが、お気に入りのバンドを3つ挙げるとすれば、迷わず入ってくるバンドである。音楽とは何かメッセージを伝えるだけではない。空間や心地よい感じを楽しむこと、歌詞に共感することで、日常にある見落としがちな美しいものや幸せが見えてくる。それに気がつければ何気ない日々も愛おしく思えるし、幸せを求める必要がなくなるのだ。だったそこにあるんだから。

三人でカヤックに乗ってただ漕いでるシーンを引きのカメラがしっかり緑に包まれた背景を映す。彼らが作るメンバー募集の広告もすべて可愛くてスタイリッシュで楽しくて、表情がある。全てがキラキラで、夢があるけど、全て日常の何気ないシーンに潜んでるのがいい。

赤いレコード盤から広がる歌の世界も笑顔でハッピーエンドに。歌の世界だけどそれは日常で、ちゃんとドーナツ盤の中に収まっていくのだ。

エンディングまでもベルセバのジャケットみたいにスタイリッシュでかっこいい。でも手が届かない世界ではない。私の住んでる世界もこんなにキラキラしてて笑顔で溢れている。要はそれを自分の目で見つけられるかなのだ。
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