GUMI

わたしに会うまでの1600キロのGUMIのレビュー・感想・評価

4.6
今年一番「出逢えて嬉しい」と感じた映画だった。
救われた気持ちでいっぱい。


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女手1つで愛いっぱいに育ててくれた母が亡くなり自暴自棄になった主人公シェリルは優しい夫を裏切り薬とセックスに溺れてしまう。

「いつこうなってしまったんだろう。母が喜ぶ私はどこへ?」
途方に暮れたシェリルは自分を取り戻すため、アメリカの西海岸のメキシコとカナダを結ぶトレイルコース:PCT(パシフィック·クレスト·トレイル)に挑戦する。
ハイカーとしてズブの素人の彼女が1600キロを歩き、その果てにシェリルが見たものは…?

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監督はダラス·バイヤーズクラブのジャン=マルク·ヴァレ。
原作:シェリル·ストレイド著。

主演のリース·ウィザスプーンが映画化を持ちかけただけあって身体を張った演技。脱いでます。
さすがにムリがあるんじゃないかと思う年齢だけど、大学生時代のシェリルをもリースが演じているが 瞳の輝き方や表情の演技が大学生らしく幼いもので感心した。

母のボビーを演じたローラ·ダーンも、リンチ勢としては彼女の叫び顔が印象的でしたが今作の演技が見事。
辛い境遇でも溢れんばかりの愛を子どもに注ぐ聖母のようなこの母親は彼女にしか務まらなかった。


1600キロの道中でホイッスルやタトゥーなど過去の出来事を想起させるアイテムを通して彼女のトラウマや人生のキーワードが明らかになってゆく構成も見事。
極端な話、自然歩道を歩き続けるだけの筋道に上手に起伏を付けてくれている。
脱力感のある鼻歌で思い出の曲が蘇る演出も、まるで自らの過去を想起するような体感なのでシェリルと共に出来事を共有しているよう。




「周りの人に置いていかれたような気分」
「周りの人と同じようにただ普通に生活したいのに出来ない。」
「周りの人と同じように上手く歩けないのはなぜ?」

そんな孤独を感じたことがある人間を優しく認めてくれる作品。
きっとシェリルはこの当時、頑張らない理由(母の死)に甘えたり頑張ることへの不安に勝てずに再起できなかったんだと思う。


生きていると得るものは多いけどその分 失うものも多い。成功も失敗もある。
悲しい出来事や辛い出来事が自分の中から1つ残らず消え去ることはない。

それでも生きてる以上、歩き続けなければならない。
PCTもそう。始めた以上、歩き続けなければならない。

喜びも成功も悲しみも失敗も、すべて受け止めて自分になる。
「なぜこんな目に遭う?」と、消してしまいたいような出来事をも自分の中に昇華させ再び歩き出す。
過ちはないに越したことは無いけれどそうもいかない。
生きている以上は辛い目に遭っても歩かなくてはいけない。それは残酷なことでもあるがそうして変化しながら生き続ける人間は美しい…そんな人間賛美を感じた。


「美しいものの中に自分の身を置きなさい」
「私(母)が教えられるのは『最高の自分の見つけ方とそれを手放さない方法』だけよ」
シェリルが母から貰ったこの言葉が今作を通して表現されていた。
シェリルだけでなく私にとっても今後生きていく中で大事にしたい考え方の一つになった。




今作を観るように母に薦めた。
「こんな生活で幸せを感じられてるのかな?」と両親に対して思うことがよくあったし、今も心配になる。
だから母にもこの映画を観て『最高の自分の見つけ方とそれを手放さない方法』を見つけてほしい。
GUMI

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