GUMI

オッペンハイマーのGUMIのネタバレレビュー・内容・結末

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

道徳的に試される答えにくい質問を延々とぶつけられるような不快で苦しい3時間。
監督の狙い通り、彼の人生という閉鎖空間に閉じ込められて試される。

なぜ苦しいと感じるのか?それは、彼と自分とを完全に切り離して考えるのが難しいから。
何が正義か?正義とまではいかなくとも、大抵の人は「求めに応じること」が正なんじゃないかと。「働く」というのはその典型。私たちと同じように彼は求めに応じてやったこと。(時に、自分の承認欲求を満たすために求めに応じるあたり=ジーンを始めとする女性関係 もただただ人間らしい。)
自分らと何ら変わりない動機で行動しただけ。他国との技術競争に負ける訳にはいかないと考えるのは自然なこと。
それぞれが違った価値観の下で求めに応じるからこそ争いは止まない。自分が何かを成し得たとき、同時に失った誰かがいるというのはよく耳にすることだけど、そういうこと…
"do the right thing"の"right"の意味合いはそれぞれだから。

題材はもちろんのこと、焦燥感を煽る、身体の中の昂りを感じるような音楽や、忘れられないあの閃光を目の当たりにする…世界を変えてしまった瞬間の画の力が更に没入感や罪悪感を煽る。

ノーラン監督となれば時系列順の構成にはならないと思ってたけど、蓋を開けたらやーっぱり巧みで。
私が彼だったらあの順番で思い出すだろうと感じた。

キャストもいちいち豪華。あんな細かい役にも?と思うほど…なのに、皆が作品を理解して演じてる。
経験値豊富が故に演技のチューニング合わせが難しいこともあるだろうに、最近の作品よりも何かとお金がかかってる気はするけど、作品に表れない部分でのケアも行き届いてることが推し量れる。

IMAXの鑑賞料金が安く感じるほど濃密な体験と余韻。強烈な作品。ここまで何かを考えさせられ続ける体験は稀有。
映画が「映画」という単語に収まらないほどの、価値観へ影響を与える作品を撮ってくれたことに感謝したい。


史実モノになると特に「あれが描かれてない」と主観での意見が多くなるかと思うけど、この作品が描きたいのはそこじゃないんだろう。むしろ、いちいち拡げていたら主題と逸れるので必要性を感じなかった。
この作品は別に誰かへ懺悔するためのものでも、オッペンハイマーの人生を答え合わせのように描いたものでも、核爆弾はいけませんということが言いたいのでもなく、この作品を通してあなたはどう思いますか?何を考えますか?というシンプルな問いとして受け止めた。
こういった、考える時間をくれるからノーラン監督が好きなんです。
GUMI

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