イルーナ

ヘイトフル・エイトのイルーナのネタバレレビュー・内容・結末

ヘイトフル・エイト(2015年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

クセもの同士、密室、雪の中。何も起きないはずがなく…
そんなやり取りが3時間近くも続く密室ミステリーと聞いて、これ相当難易度が高そうだなと思っていた本作。
しかし観てみたら意外や意外。ガッツリと作品に入り込めました。
相変わらず緩急のつけ方が上手い会話劇ですが、一見無駄話と見せかけて後にほぼ全て回収されるというのは、もはや円熟の技の域。

本作の特徴は、約半世紀ぶりにウルトラパナビジョン70というカメラで撮影されたこと。
通常のシネスコサイズで2.35:1に対し、こちらは2.75:1という圧倒的なサイズ感。
これにより、広大な雪山はもちろん、情報量満載でありながらも息苦しさを感じさせないセット、画面の手前と奥で同時進行するシナリオという具合に見事な撮影を拝むことができます。
しかし、本作以前の時点でたった10本の映画にしか使われなかっただけに上映できる映画館がなかったところ、パナビジョン社とコダック社の全面協力を経て、全米100館と世界各地の映画館で上映できるよう機材を導入。
この3時間7分のノーカット版は、2015年12月25日にロードショーとして二週間限定で公開。
『グラインドハウス』がB級映画館の体験なら、こちらはまさに往年の超大作をじっくり味わえる映画体験。
日本にはこのスタイルで上映できる映画館がなかったのは残念至極……

そして本作で映画音楽の巨匠、エンニオ・モリコーネが6度目のアカデミー賞ノミネートで悲願の受賞。
『モリコーネ 映画が恋した音楽家』でも紹介されてましたが、「映画音楽・作曲家のレベルを超えている!彼はモーツァルトであり、ベートーヴェンであり、シューベルトなのだ!」
と熱く語るタランティーノに対しモリコーネの「それが分かるのは200年後だ」という返しがクールでカッコいい……!

『ジャンゴ 繋がれざる者』が南北戦争直前が舞台だったのに対し、本作は終戦から数年後が舞台。
猛吹雪に閉ざされた密室に集ったクセものたちは皆、それぞれに憎しみを抱えている。
黒人対白人、北軍対南軍、行方不明の店主ミニーもメキシコ人嫌いだった。
つまり、あの中はアメリカの歴史や社会の縮図。
それだけに、いがみ合っていたウォーレンとマニックスが共闘し、今際の際にリンカーンからの手紙を読み上げる姿が熱い。
腹の探り合いの末に全滅する終わり方は『レザボア・ドッグス』と同じですが、こちらは立場が違う者同士でも共存できるという希望を提示して終わる。

にしても「ミニーの紳士服飾店」、ドアが壊れてることやトイレが離れていること、殺し合いを除けば結構快適そう。
「置いてないのは紳士用品だけ」というだけあって、駄菓子を売ってたり、バーがあったり、シチューも出してもらえたりで。
この建物自体がある意味主人公なだけに、その作りこみは半端でない。
個人的には気候などの条件が合うならちょっと泊まってみたい。
あの具沢山のシチュー、美味しそうだったな。

アニヲタwikiにまとめた記事
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/55712.html
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