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セッションのfujisanのレビュー・感想・評価

セッション(2014年製作の映画)
3.6
『衝撃のラストセッション』

「ラ・ラ・ランド」のデイミアン・チャゼル監督の出世作。ジャズドラマーを目指した過去がある監督が自身の経験を投影して制作した映画で、低予算ながらアカデミー賞三部門を受賞した映画でもあります。

個人的にも本作は初見。公開当時、観ようと思いつつも、『これは本当のジャズじゃない!』的な、作品の本質関係なしにしょうもないおっさん同士の揉め事が発生したこともあって嫌気が指し、「フルメタル・ジャケット」系の鬼教官ものも苦手なので、観ていなかった作品でした。

今回、公開10周年記念として限定劇場公開されており、『これは多分、配信だと観ないやつだ』と思ったので週末に観てきたのですが、結果、音響が素晴らしかったこともあり、意外に楽しめた作品でした。

本作でアカデミー助演男優賞を獲得したJ・K・シモンズの鬼教官役は想像通りでしたが、生徒役アンドリュー(マイルズ・テラー)もなかなかのクソ野郎っぷりで、鬼 VS 悪魔みたいな意外な展開が楽しめる映画。

どこか”いじめられ顔” のマイルズ・テラー。
個人的には壮絶な山火事の実話映画「オンリー・ザ・ブレイブ」で生き残った青年役が印象的なのですが、今は「トップガン マーヴェリック」のグースの息子役としてのほうが有名かもしれませんね。

一見、鬼教官にしばき回される可哀想な役どころかと思いきや、ドラムに集中するのはいいとしても、自分が復活したら元カノに平気で電話するなど、なかなかのサイコパス役。なんにせよ、彼もこの「セッション」が出世作になったことは間違いないでしょう。

一方のJ・K・シモンズ。ラストシーンのクズ野郎っぷりもある意味で見事でしたが、考えてみると理解できるところも(少しだけ)ありました。昔、編集者の大事な仕事は諦めさせることだ、というのを聞いたことがあり、厳しい世界でいつまでも夢を見させるよりも、早く現実を解らせるのも優しさだ、と。

多分、この映画の鬼教官は利己的に動いていただけだとは思いますが、ある意味、音楽業界の厳しさを改めて感じる映画でもありました。

”本物のジャズなのかどうか論争”についてはどうでもよく、私自身もITを本業としているので、映画の中でよく出てくる『機密情報が記録されたUSB』っていう演出に毎回苦笑いするのですが、要は映画として面白ければいいやん、と思っていて、映画の中の演出が本物かどうかなんてナンセンスだよねって、個人的には思っています。

本作のジャズ演奏は、素人の私にも素晴らしさがわかるものになっていて、「ラ・ラ・ランド」もそうでしたが、デイミアン・チャゼ監督らしい、”現実味のあるエンディング”も良かったと思います。

共感は出来ませんでしたが、観てよかったと思える作品でした。
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