まりぃくりすてぃ

救いの接吻のまりぃくりすてぃのレビュー・感想・評価

救いの接吻(1989年製作の映画)
4.9
中身がある。とてもある。ショットの近さが、美しい各人への感情移入度を倍増させてくれる。
作品内世界に対しては作り手が神。完成作に対しては観客が神。そしてブラフマー(創造神)としてのフィリップ・ガレル監督の傲慢さとシヴァ兼ヴィシュヌ(破壊の神&愛の神)としての私の傲慢さとのドツキ合いが、至福のクリンチを生んだ。いや、チークダンスを。
世の映画批評家たちは生活と人生とマウンティングのために映画を観るが、この私は自己の幸福と尊厳のために映画を裁く、、、とそんなどうでもいい雑念がチラッと私の頭をよぎった矢先に、ちょうど女優さんが「愛よりも大切なものは、尊厳。尊厳がなければ生きられない」と男前な言葉を振り絞った。こういう完璧作によって育まれゆくわが予言者性が、心から嬉しかった。
その前の、「(映画なんて嘘。)現実こそ真実だ」のくだりも完全無欠。男同士の「おまえに、幸せになってもらいたいんだ」のやりとりには泣きそうに。
子供も、全然邪魔感ない。必要な者なのだから当たり前か。
クリエイター指向の人に特に響くメタ構造のストーリー、かと最初だけ思ったんだが、地に足のつきまくってる家族映画だった。
どの作品でもそうなんだろうけど、人物の左右配置の選択(大切なほうを右に)が常に定石どおり、な監督さんだ。

充実度が高いため、モノクロ映画であることをずっと忘れて私は見入ってた。終盤近くの草原シーンで「あれっ、カラーじゃなかったんだ?!」と数十分ぶりに気づいて驚いた。
どう纏めるのかと諏訪映画のオトナの傑作『不完全なふたり』なんかと引き比べつつ期待したが、終わり方は淡白だった。失速じゃないけど。子供が最後に死んでくれてもよかったかも。(良作において、人はそうカンタンには突然死しない!!)