ひでやん

さらば、愛の言葉よのひでやんのレビュー・感想・評価

さらば、愛の言葉よ(2014年製作の映画)
4.1
イマージュの海に溺れて。

初期のゴダールは「男と女と車(+銃)」で映画を撮ったが、83歳にして発表した今作は「男と女と犬」の物語を3D映画で世に放つ。登場するのはゴダールの愛犬ロクシー。

「想像力を欠くすべての人は現実へと逃避する」

その字幕で、初っ端から弾かれそうになる。いや、現実から逃避したいからあなたの映画に飛び込むんです。覚悟を決めて。写実的な絵を見るのは好きだが、絵の具を叩き落として、滴り落として、爆発させる抽象画からイメージを膨らますのも好きだ。訳分からんけど。

人妻と独身男の愛を主軸に、彷徨い歩く犬を映し出す。ただそれだけの粗筋。粗筋が3でイメージが5億。断片的な戦禍の映像、柵に手をかける女、水、花、昆虫、果物、魚、鮮血など、夥しいモンタージュが挿入され、スマホ画面にTV画面、ダッチアングルに反転、暗転、無音、モノクロ、スローモーション、黄味を強めたカラーグレーディング…という映像の洪水を処理しきれず、ただただ眺めるだけ。

男と女が映り、女が移動してフレームから外れると、男を捉える画にオーバーラップさせて女へとパンし、また元の位置に戻るシーンが衝撃。こんなの初めて観たって思ったが、2Dだからそう見えるのか?ちくしょう、劇場の3Dで観たかった。車窓や路面や水面の映り込みがとんでもなく美しい。挿入される謎の白い点にどきり。「アブラカダブラ毛沢東ゲバラ」という謎の呪文にクスリ。

「自然」と「メタファー」の章に分け、そのテーマを反復させたり織り交ぜたり、全然意味が分からなかったが、イマージュの海にどっぷり浸かった時間は、至福の時間だった。
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