ベイビー

ナイトクローラーのベイビーのネタバレレビュー・内容・結末

ナイトクローラー(2014年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

ここまで主人公に感情移入できない映画は稀だと思います。ルイスは自己顕示欲の塊で、自己中心的で、利己的で、友人もなく、定職もなく、キレやすく、平気で嘘をつき、人の物を平気で盗み、人としての罪悪感を持ち合わさない、人として、社会人として、何らかの問題があることはもちろんですが、それよりも、絶対に自分の周りにはいて欲しくないタイプの人間です。

そんなルイスが見つけた職業はパパラッチでした。他人の不幸をかえりみず、スクープの為なら土足で人の心を踏みにじる。パパラッチという職業はルイスの天職と言っても過言でなく、彼の才能が開花し、次第にこの職業に取り憑かれていきます。

ルイスはある日、自分で雇ったアシスタントのリックに「あんたはもっと人のことを理解した方がいい」と言われます。あまりにも無礼なものの言いようです。しかし、少しのミスで直ぐにキレ、独特の理論で論破されては、リックが言うことも無理がないのかも知れません。それにしても、本当にルイスは人のことを理解していない人間なのでしょうか? 私は逆だと思います。

ローカルTVのディレクターのニーナに、ルイスは需要があるスクープとは何かを教わりました。ニーナは「平穏な日常が脅かされるた映像」こそが、視聴者が求めるスクープだと言うのです。このときルイスは人間の本質を見抜いたのではないでしょうか? 対岸の火事のように、遠くで平穏な日常が脅かされる映像を眺め、心のどこかで恐怖を感じながら「でも、自分の日常は大丈夫」だと、安心を確認する。そこに人間の本質があるとルイスは知ってしまったと思います。

ルイスは「恐怖(FEAR)」を「本物に見える虚偽の証拠(False Evidence Appearing Real)」と言っています。ルイスは「平穏な日常が脅かされるスクープ」の為に、目の前にある事実を次々と偽装していきます。視聴者が求めているのは真実ではなくリアリティであると分かっているため、ルイスの狂気は止まりません。そしてルイスは最大のスクープを得たにも関わらず、それを元に次なるスクープを得るために、犯罪を演出するようになってしまうのです。

何度も言いますが、これほど感情移入できない主人公はいません。たとえ人の本質が分かっているとしても、これほど人の心が分からない主人公の言動に、私は自分の心を投影できないのです。
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