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殺されたミンジュのShinMakitaのレビュー・感想・評価

殺されたミンジュ(2014年製作の映画)
3.2
5月9日、少女ミンジュが殺された。統制の取れた男たちに市場で拉致され、テープで顔を巻かれ窒息死した彼女は、無残に遺棄されたのだ。

1年後、恋人とのデートを楽しんだオ・ヒョンは、突然謎の集団に拉致される。凄絶な拷問の末、去年の5月9日に何をしたのか、自供を迫られる。ヒョンは実は、ミンジュ殺害チームの一員だったのだ。結局、供述書を書いて釈放されたヒョン。だが、拷問によりプライドを傷つけられた彼は、謎の集団の正体を探る決意をする。ミンジュ殺害チームのメンバーを次々拉致拷問し、供述を取ろうとするこの集団…一体彼らの目的は?

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「殺されたミンジュ」。キム・ギドク監督作品。ですから、単純な自警団スリラーを想像していると、アテが外れます。これは非常に毒気が強い社会批判映画。もっと言えば民族批判映画かもしれません。以下ネタバレっす。





ミンジュ=民主というメタファーはどのレビューでも言われてますね。殺された民主…すなわち上からの命令は絶対という軍国主義への痛烈批判が込められたタイトル。物語にも、発端となったミンジュ殺害が、上からの命令…実行した男たちにとっては「任務」に過ぎなかったということが描かれます。謎の集団に拉致られて、彼らはその任務が人の道に外れた行為であったことを再認識して苦しんでいくのです。一方、実行犯たちを糾弾する謎の集団側にも、様々な事情と屈折のドラマがありました。彼らにとっての忌むべき社会とは、DV夫や借金取り、理不尽な上司や嫌味な客だったりします(これ全部をキム・ヨンミンが演じて、解りやすいメタファーになってます)。彼らの閉塞感は、今の格差社会を映し出していましたね。彼らは抱えている行き場のない怒りを、ミンジュ殺害実行犯(最初がオ・ヒョン=キム・ヨンミンなわけです)にぶつけていくんです。つまり〈恨=ハン〉ですね。この恨の最果てにある景色を、ギドクは提示します。これって、韓国文化そのものの否定ではないでしょうか。否定というか、恨のエンドレスさを憂いている、というのが正しいのかな。とにかく、これほど暗喩に満ちた韓国批判映画も珍しいかも知れません。映画技法的な拙さはまだまだ目立つものの、ギドク監督はますます鋭利になってきているなあと感じました。オススメです。
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