サマセット7

ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生のサマセット7のレビュー・感想・評価

3.7
ハリー・ポッターシリーズのスピンオフシリーズ、ファンタスティック・ビーストシリーズ第二作品目。
監督は「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」以降のシリーズ同様、デヴィッド・イェーツ。
主演は「博士と彼女のセオリー」「リリーのすべて」のエディ・レッドメイン。

ニューヨークにて捕らえられた黒い魔法使いグリンデルバルト(ジョニー・デップ)であったが、ヨーロッパへの移送中に脱走し姿をくらます。
他方、ロンドンに帰還し魔法生物の研究を続けるニュート(レッドメイン)だったが、ロンドンの魔法省からは旅行を禁止され、ニューヨークでいい雰囲気になったティナには、新聞の誤報により婚約したと誤解されるなど、いいことがない。
そんな中、ニュートの元に数々の人物が訪れる。
兄のテセウスと婚約者のリタ。
ニューヨークからやって来たティナの妹クイシーと、その非魔法使いの恋人ジェイコブ。
そして、かつて指導を受けた魔法学院の教師にして、世界屈指の魔法使い、アルバス・ダンブルドア。
ダンブルドアは、前作でグリンデルバルドが執着していた青年クリーデンスを追うようニュートに頼む。
やがて運命は交差し、ニュート、ティナ、クリーデンス、グリンデルバルドらは、パリに集う…!


人気魔法ファンタジーシリーズ・ハリー・ポッターシリーズよりも過去の時代を描くスピンオフシリーズ第二弾。
世界で6億ドルを超えるヒットとなったが、9億ドルを超えるのが一般的なシリーズにおいては、物足りない数字か。
一般に評価は分かれる傾向があるようで、特に海外の評論家の評価はイマイチだったようである。

前作は、さまざまな個性をもつ魔法生物の生態と保護をメインに据えた新規軸を採用し、好評価を得た。
今作でも魔法生物たちは活躍するが、どちらかというと、後景化している。
メインの筋は、原題の副題どおり、黒い魔法使いグリンデルバルドがパリで実行するある企みと、その企みに翻弄される群像劇、というあたりになる。

今作の見どころは、前作から続投の各キャラクターの近況観測、今作で本格的に描かれる若き日のダンブルドアと今作最大の敵グリンデルバルドという2大キャラクターの描写、そして、ハリー・ポッターシリーズとの関連を示唆するディテールとその考察の面白み、にある。
パリの魔法ワールド描写や、今回新たに登場するベビーニフラーやズーウーといった魔法生物たちの生態も楽しみの一つと言えるだろう。

やはり、というか、最大の魅力は、ジュード・ロウ演じるダンブルドアと、ジョニー・デップ演じるグリンデルバルドのキャラクター描写だ。
大物俳優を起用して、かなりの出番も用意。
製作側の気合が伝わってくる。
さすが、2人ともスクリーンに登場するだけで、ビンビン伝わる他を圧するカリスマ!
格の違いを見せつける。
特に脚本家にしてハリーポッターシリーズの原作者J.K.ロウリングが、「予知者にして嘘吐き」と呼ぶグリンデルバルドの暗躍は見どころ。
特に終盤の演説シーン以降は、少年漫画的強キャラ感がたまらない。

ニュート、ティナ、ジェイコブ、クイニーら前作のメインキャストは今作でも活躍。
彼らの人間関係を見るだけでも、シリーズファンなら楽しい。
特に主人公ニュートのエキセントリックなキャラクターは、前シリーズの主人公ハリー・ポッター以上に、見ていて面白い。
ティナとの会話のシミュレーションや実際の会話など、笑ってしまう。

ハリーポッターシリーズとの関連要素が前作に比べて大きく増量されている点もお楽しみだ。
というより、ここを楽しめなかったら、今作の面白さは大幅減になるのではあるまいか。
グリンデルバルドとダンブルドアを筆頭に、前シリーズで登場し、あるいは名前のみ出てきていたキャラクターやその親族、アイテム、場所が次々と登場してくれる。
特段説明はないため、前シリーズを未見の人や見てから時間が経っている人には分かりにくいだろう。
その意味で、100%楽しみつくすためにはハードルの高い作品ではあるかもしれない。
大河シリーズの宿命だろうが。

J.K.ロウリングらしく、終盤にはしっかりと驚きの展開を用意してくれており、安心感がある。
原題の回収も冴えている。
とはいえ、シリーズのファンなら格別、そうでもない人の場合、ラストは、「…ああ、そうなんだ、へー」で終わるかもしれないが。

前作は、人と他者との間の分断と不寛容というテーマが明確になっていると思えた。
今作でも、基本的には同じテーマを承継しているのだが、テーマ性という意味では、やや焦点がボヤけた感は否めない。
あえて今作独自のテーマを探すならば…、何だろう?
最も印象的なシーンであるグリンデルバルドの演説に照らすと、分断と不寛容は、一見するともっともらしい大義から生み出される、という警句だろうか。
そして、大義ほどに甘く、人を狂わせるものはない。
とあるキャラクターの顛末などは象徴的である。
この辺り、英国人であるJ.K.ロウリングの想定する最悪の敵は、常にナチス・ドイツであり、今作のグリンデルバルドも、前シリーズ最大の敵ヴォルデモートと同様に、ヒトラーをモデルに造形されたのではないか、と推測される。
ヴォルデモートが恐怖の象徴としてのヒトラーがモデルならば、グリンデルバルドは、巧みな演説者であり扇動者としてのヒトラーがモデルなのかもしれない。

今作について評論家の評価が低いのは、頷ける部分もある。
テーマ性の希薄化。
前作で打ち出した魔法生物周りの描写の2作目にしての減少。
説明不足による飲み込み辛さ。特にアイテム周りについては、作中で何の説明もなく登場し使用されるため、旧シリーズの設定を熟知していなければ、何が起こっているかよく分からない。ストーリー上重要な意味を持つだけに、タチが悪い。
一部のキャラクターの行動が不自然に見えること(続編で理由がわかるかもしれないが)。
一部設定に、偶然の積み重ねが多すぎること。
キャラクターの成長が描かれていないこと。
また、究極の善であるダンブルドアと、究極の悪との対立に、善の代行者として主人公が参加する、という構図は前シリーズと変わり映えしないこと。
前日譚という構成上、前シリーズのラスボス、ヴォルデモートを超える悪役が想定し辛く、一段格が落ちる悪役との対決を繰り返しても、マンネリに陥るように思えること。

とまあ、批判できそうな点はいくらでも出てくるのだが、全て飲み込もう!
なぜなら、シリーズのファンだから!
御大が、すでに前シリーズ終了時点で1200億円以上儲けたにも関わらず、わざわざ自ら続きを書いてくれるというのだから、内容はどうあれ、出てきたものが正典だ!
続きがある!
それ以外に何が要るって言うんだ?

人気スピンオフシリーズの、2大キャラクターの活躍が印象的な続編。
さて、残念ながら、今作でカリスマを見せつけたジョニー・デップは、DV絡みのスキャンダルの煽りで降板。
次作以降、グリンデルバルドは、マッツ・ミケルセンが演じることになった。
ミケルセンは、MCUのドクター・ストレンジで悪の魔法使いを演じた経験もあり、順当なキャスティングだろう。
マッツ・ミケルセン版グリンデルバルドにも期待したい。