茶一郎

ヘイル、シーザー!の茶一郎のレビュー・感想・評価

ヘイル、シーザー!(2016年製作の映画)
3.8
『 神はハリウッドに殺された 』

 恐ろしく精巧に作られた美術、そこに生きるキャラクターたちは、おおよそ映画新参の私では回収できないほど。『古き良き』ハリウッドのオタクであるコーエン兄弟の研究成果でもあり、「ファーゴ」よりこちらに『これは実話である』と一文を添えるべきではないかと思ってしまうほどの再現度だろう。

 総勢10人以上のトップ豪華役者たちが揃った今作では、実にコーエン兄弟らしい観客含め登場人物たちが、『脚本』という名の設定される限りの世界をひたすらに迷い続ける。
まさに
   『It is complicated !』
    な状況を、最後にはスッキリ回収してしまうこの閉じた『世界』に親指がクッと立った。
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 舞台はハリウッドのスタジオ、その名前は『Capitol Pictures』。そう聞くと、つい同監督内幕モノである「バートン・フィンク」の主人公を雇うスタジオ『Capital Pictures』を思い出す。今作の『Capitol』は『神殿』の意だが、『Capital』は『Capitalism』すなわち『資本主義』を連想する。そういえば、今作はハリウッドの赤狩り前が描かれる、資本主義VS共産主義の映画だった。

 当時のハリウッドでは、脚本家を雇い缶詰にして奴隷のように扱っていた、その様子は「バートン・フィンク」でも描かれていたが、監督の次の作品「未来は今」でハリウッドのスタジオシステムに奴隷のように扱われたのがコーエン兄弟自身である。今作で、奇人たちによるギャグから伝わる、実際のスタジオシステムでの『映画作りはつらいよ』はコーエン兄弟実体験でもあるということだった。

 キャラクターの一挙手一投足にニヤニヤしつつ、本当に大変な映画作りはそりゃ『禁煙は続かないし』『懺悔だってする』そんなスッタモンダにスタジオの崩壊を予感させる。
 
 ハリウッドシステムによって神は死んだのか?
 スタジオの何でも屋(ジョシュ・ブローリン)の願いは神に届くのか?
この映画で最後に映るものに注目したい。そうです。常に神は登場人物たちを見守っていたのだ。
それは、それは、コーエン兄弟という、とても冷たい神様だけれども、最後にはちょっと微笑んでくれる。
茶一郎

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