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特捜部Q 檻の中の女のtanayukiのレビュー・感想・評価

特捜部Q 檻の中の女(2013年製作の映画)
4.1
ユッシ・エーズラ・オールスンによる原作小説はオーディブルで視聴済み。最初に見たときは原作を読んでなかったので、思い入れがない分、評価も低かったみたい。いまは、アサドがイケメンすぎるきらいはあるけど、原作の霞がかった暗い雰囲気がうまく再現されていて、(尺が短すぎるという問題はおいといて)なかなか見応えのある作品に仕上がってると思う。

原作では、ミレーデが監禁されていたのは丸5年以上で、その間、監禁犯はミレーデを精神的にいびり続ける。

「誕生日おめでとう、ミレーデ。三十二歳を祝ってあげよう。そう、今日は七月六日。お前はここに百二十六日間うずくまっていた。そしてこれが私たちからの誕生日プレゼントだ。今から一年間、明かりをずっとつけておいてやるよ。お前がこの質問に答えることができれば別だけどね。質問はこうだ。〝なぜ私たちはお前を檻に閉じ込めているのか?〟」
「落ち着きなよ、ミレーデ。殺しゃしないさ。それどころか、これ以上ひどいことにならないよう、チャンスを与えようとしているんだよ。自分に与えられた問いに答えることだね。私たちはなぜお前を獣のように檻に入れているか。答えは自分で見つけな」
「答えろ、ミレーデ。答えないと、もっとひどい結果が待っているよ」
「残念。お前は試験に落ちた、ミレーデ。罰を下す時間がきたよ。まあ、そんなにきつくないはずさ。楽に耐えられるよ」
「部屋の気圧を二バールに上げる。一年後にお前がどのくらい賢くなっているか、見ものだね。人間の身体が最大でどれくらいの気圧に耐えられるのか、正確にはわからない。でも時間が経てばお互いわかるだろうよ」

「おめでとう、ミレーデ」「三十三歳の誕生日おめでとう。元気そうじゃないか。今年一年、勇敢な子だった。太陽も輝いているよ!」
「あの質問について、ちゃんと考えたか? なぜ私たちがお前を動物のように檻に入れているのか。なぜお前がここで監禁に耐えなくてはならないのか。答えがわかったか? それとも、またお前を抜歯無くてはならないのかね。誕生日プレゼントと罰と、お前が受け取るのはどっちだろうねえ?」
「ミレーデ、お前はこのゲームを全然理解していない。ヒントなどあるものか。お前はひとりで正解に辿り着かなくてはならないんだよ。バケツを送るよ。なぜ自分がここにいるのか、その間に考えることを許してやる。それから、お前に小さなプレゼントも送ってあげよう。役に立てばいいのだけどね。もうあんまり時間もないしね」
「おやすみ、ミレーデ。あと一バール気圧を上げることにする。これでお前の記憶がよみがえるかどうか様子を見よう」

上記のような鬼畜なやりとりが延々と続き、ミレーデの精神が崩壊していく過程を追体験させられるところが原作のおそろしさなんだけど、映画ではそのあたりが全部省かれている。まあ、90分では、そんなことやってられないよね。ただ、はみ出し者のカール・マークと、過去に何か問題を抱えたアサドが少しずつお互いを受け入れ、距離を縮めていく様子は、映画のほうがよく描かれていたかもしれない。バディムービーとしても楽しめる。

ところで、自分のちょっとしたいたずらが原因で父親がハンドル操作を誤り、両親とも事故死したというのに、少女時代のミレーデは、何事もなかったかのように、あたりを徘徊する。泣き叫んで取り乱す様子はまるでない。そんな姿を目に焼き付けた幼いラース少年の心に鬱屈した感情が刻み込まれたとしても、責める気にはならない。むしろ、ミレーデのイノセントな異常性に目を奪われてしまうのだ。

△2023/12/17 U-NEXT鑑賞。スコア4.1 △2019/01/06 アマプラ鑑賞。スコア3.7
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