みほみほ

はじまりへの旅のみほみほのレビュー・感想・評価

はじまりへの旅(2016年製作の映画)
4.4
🗡2020年363本目🗡

年に数回出逢えるかどうかの傑作。あっという間に魅了され、鑑賞中であるにも関わらず、様々な事を考えさせられて 脳が大忙し。想像してた作品の斜め上を行く冒頭にびっくりした。


この過酷な生活で、名立たる大学に全て合格出来てしまう長男は説得力がないが…余計な娯楽など全て抜きにして、こんなストイックで原始的で独創的な生活をしていたら、吸収出来るものの方が多いのかもしれない。


誰のどの生き方が正しい、間違っているではなく、最善として考えるものがこれだけ違う事による違和感を見事に感じさせてくれる。私の感覚で言えば、あの父親の方針は到底受け入れられるものではないし、子供に及ぶ影響の大きさも深刻であり悩ましいが……、かといって彼が間違っているかと言われれば、確実な答えは出ない。
あれが人間本来のシンプルな生き方なのかもしれないし、人間関係に悩んだり、ゲームに没頭するよりも良いとも思える。


学校に行き勉強する事、人と関わって人間関係を創り上げること、協調性を学ぶ事、果たしてそれは自分の人生にとって、そんなに大切な事だったか??彼らの生活スタイルを見ていると、そんな疑念が浮かんでくる。

生涯の友を見つける者、恩師に巡り会える者、かけがえのない時間を過ごした者もいれば、パッとせず、目標もなくダラダラ過ごした者もいる。そんな人間からしたら、ただ時間をやり過ごし、人間関係に悩んだ時間は、何か人生の役に立ったのか?!そんな思いに駆られ、彼らの強い意志を築き上げたあの教育が、羨ましくも感じた。


ベンの教える生き方は、現代には必要ないものかもしれないが、人間として大切なものである事は間違いない。どの目線から考えるかによって、こんなにも方針が変わってくるのは、とても興味深い。妹夫婦の家に行った際には、子供を使って実証しようとするベンが嫌な奴に見えるけども…確かに言われてみれば、世の中の正しいとされる事が生んだものは、正しいとは言えない。そんな矛盾を、ベンの思考から学べるのも面白い。


途中まではベンの築き上げたものが完璧に見えたものの、崩れ去ろうとする家族の形が切なく、特別胸を打たれた。自分のしてきた事を、過ちと口走った彼を見つめる子供達の目が、とても悲しかった。


万引きを任務のように遂行する家族を見ていて、結局実世界に馴染めない現実を思い知らされたし、家族の形は人それぞれと考えても、正しい事には思えなかった。飲酒もそうだけど、徹底しているところとマイルールが混同しているのが妙に矛盾していて、彼の独自ルールの危うさを感じさせられる。


ヒゲのないヴィゴ・モーテンセンが、凄まじいかっこよさで驚き。いつもヒゲのイメージがあったけど、あんなに印象が変わるとは…!時を止めるような魅力だったなぁ…。彼の影響で、エルフってワードが出てきた時、ちょっと嬉しかった。(ロード・オブ・ザ・リングに掛けて、あえて出したんだろうけど…)


長男めちゃくちゃ見た事ある!と思ったら、「マローボーン家の掟」の長男か!!!2年連続で良い役貰ってるなぁ…!!「1917 命をかけた伝令」でも主役張ってるし、凄い大活躍。

なかなか強い意志を持っている次男役の子が、ジュダ・ルイスかと思うくらい綺麗で、びっくりした。この先の活躍がかなり楽しみ。

なんか兄弟の関係性と、世間との関わり方と、長男だけ恋をして街に踏み出しているところが、「マローボーン家の掟」と重なる。


ベンの性教育が直球で面白かったけど、彼の嘘のない真っ直ぐさが、子供に良い影響を与えていたと思う。クリスマスは独特な祝い方してたけど、なんか全てにおいて、説得力のある思想があるから、さすがに想いがあって反抗していた次男も言葉に詰まっていて、私自身も圧に押されつつあった。

良く言えば理想の形、悪く言えばカルト宗教のような…でも的を得ているから、偏っていても正しく見えてきてしまう危うさもある。


長男が同年代の女の子を見ただけで動揺したり、話が見事に噛み合わないのも笑えたし、真剣にプロポーズしてしまうあの感じも、なんか普段の生活や生き方が一番ストレートに反映されていて、面白かった。良い意味でも悪い意味でも、彼は優しく自分の信じた道を、ひたすら真っ直ぐ歩んでいけそうな強さがある。


人の生き死にや法廷ドラマや実話物ではないのに、ここまで心にどっぷり染み込んでくる作品って凄過ぎる。このエネルギーは最高に心地良い。

泣けるとか泣けないではなく、ストレートに心に刺さりました。絶対に見て欲しい作品。強くオススメします!!!!!
みほみほ

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