ナガノヤスユ記

山の音のナガノヤスユ記のレビュー・感想・評価

山の音(1954年製作の映画)
4.0
めくるめく視線の会話劇。かなり倒錯的で、転覆的な2ショットのエロティシズム。戦前的家族像の崩壊なんていう生易しいもんではない。根源的な愛の不可能性を描きながら、ともすれば婚姻制度の欺瞞そのものに挑戦している。成瀬映画はいつでも、昭和という時代を描きながら、社会のはぐれものの視点からそれを相対化する。たとえ最後に待ち受けるものがただ死のみであろうとも、父はやぶれかぶれで突進し、娘は傷ついた脚を引き摺りながら、背筋をのばして生きていく。
派手さはない。飛び道具もない。ただ、ひりつくような人間関係の痛さだけが、何層にもおり重なっていく。