茶一郎

ボーダーラインの茶一郎のレビュー・感想・評価

ボーダーライン(2015年製作の映画)
4.3
『 鬼!悪魔!ベニチオデルトロ!』
 
 不謹慎ながら、『メキシコ麻薬戦争』は映画に限って言えば、とても面白い。『戦争』と言うだけの凄惨な暴力は、一般市民の生活と同居し、暴力と平和が共存する奇妙な世界。作品中、挿入される何気ない生活の描写により、銃口を向けている先が、一般市民なのか、麻薬組織なのか、じりじりとしたサスペンスを生む。

 監督ドゥニ・ヴィルヌーヴは、現行トップレベルと思われるサスペンスの名手。タイトル「ボーダー・ライン」、つまり『境目』は作品に毎回、顔を出す。それは時に、親と子の、自分の内面の二つの感情の、自警における善と悪との、境界であり、対立する二つの構造が浮き上がっていた。どちらかが一方に屈し、時に打ち負かし、その様子は見事にサスペンスフルな演出とともに観客の倫理観を揺さぶる。

 今作で魅力的なのは全編の緊張感:サスペンスだけではなく、あるダークヒーロー。このヒーローの活躍、いやこの活躍は間違いなく暴力なのだが、その暴力にある種の清々しさを感じるほどに、僕の倫理観はズタボロになってしまった。
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 メキシコ・麻薬の題材の映画に、ベニチオ・デル・トロが出ていれば当たり、という法則ができかけているような。彼が演じるアレハンドロが寝ながら、ガクッと体を動かす睡眠あるあるをかます。なんだ普通のおっさんか……と思ったらトンデモない。コイツが、あのダークヒーローの正体だった。
 
 エミリー・ブラントは、主人公の強い女性像を見事に演じる。主人公が女性という設定が、男ばかりの作戦隊での異物感を感じさせ、彼女が善と悪とが入り混じるこの地、最後の善意に見えた。

 主人公は観客と同様、混沌とした状況がたどり着く先を『見届けたい』と言い、ドンドンと深みにハマっていく。
最後の『白』と『黒』の対比、ついに善は悪の暴力に屈し、まさに悪魔の契約書にサインをしてしまう。どっちが正しいのかは全く分からない。
この映画は、白と黒との境の直線上、怪しげなグレーの異色を放つ。
茶一郎

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