こたつむり

ボーダーラインのこたつむりのレビュー・感想・評価

ボーダーライン(2015年製作の映画)
4.1
アメリカとメキシコの国境線。
遠くから聞こえる銃声。
街角に吊るされる死体。
法ではなく、暴力と恐怖が支配する世界を描いた物語。

さすが、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督です。
麻薬密輸と密入国に敢然と立ち向かうFBI捜査官の物語なのですが、もうね。冒頭から衝撃的な場面で、ぐいぐいと惹き込んで来るのです。しかも、終盤までその緊張感で突っ走りますからね。軟弱者の僕には刺激が強過ぎました。自然と息が浅くなりますよ。鳩尾を常に殴られているような気分ですよ。

正直なところ。
日本に生まれて良かった、と。
言いたくなるほどの苛烈な現実。
それは、死が死を塗り替えていく世界。そして、終わらない悲劇。

しかも、国境線に広がる大地と黄昏の空は雄大。まるで、人間の欲望を嘲笑うかのように美しいのです。何故、僕たちには貧富というものがあるのでしょうか。このまま僕たちはこの苦しさを抱えないといけないのでしょうか。何故、僕たちは生まれてきたのでしょうか。

そんな答えが出ない思考の迷路で。
手を天に伸ばしても雲を掴めるはずもなく。
けれども、空が繋がった向こう側で今でも行われている現実。あー。重い。

そして、暗い現実を象る作品の中で。
異質感を極めていたのがベニチオ・デル・トロ。アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の『21g』でも、やるせない役柄でしたが、本作でも陰の強い男を演じていました。常に“眩しそうに”している表情が哀愁を際立たせてくれるのですね。

まあ、そんなわけで。
はたして正義とは何なのか。
圧倒的な悪とは何なのか。
なんて考え出したら止まらない作品です。気付けば暗い淵に立たされているので、心身が弱っているときは止めておいたほうが良いと思います。また、事前情報は衝撃を和らげてくれますが、本作の醍醐味を失う可能性があります。臨場感を味わうためにも、素のままでご覧になることをお薦めします。
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