るる

グレイテスト・ショーマンのるるのネタバレレビュー・内容・結末

グレイテスト・ショーマン(2017年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

サントラが良い、正義。

こんなに、いろんなテーマが含まれた題材を、こんなにテーマを絞って軽量化して、楽曲の素晴らしさで押し切る力技、とんでもねえなと思ったけど。

寺山修司にハマった時期があるので、見世物小屋の観る見られる関係には差別性が存在する、それすら楽しむ、楽しませる、考えさせる、体験をする、体験を提供するのがエンタメ、エンタメとは本来そういう鍔迫り合いの先にあるもの…だと思ってる。
そういう意味では、ちょっと手つきが雑というか、史実を漂白している、彼らや私たちが持つ差別性を単純化して軽量化して取るに足らないものにしている、という気はしたけど。

それでもエンタメは素晴らしいんだ、とハリウッドが語り直した映画だと思ったのよね。セクハラ問題とか白いオスカーとか、ハリウッドの権威は地に落ちたと言っても過言ではない、いやもうみんな薄々わかってた、スキャンダルまみれのスターといい、エンタメ業界は綺麗なところじゃない、エンタメに従事する人々は、ご立派なひとたちばかりじゃない、彼らをチヤホヤする、世界を動かす政治家だとか権力者たちだって…

でも、それでも、エンタメは素晴らしいんだ、ハリウッドは夢を叶える場所、夢が叶う場所なんだ、みんなで、もう一度、わたしたちの家に、わたしたちのハリウッドへ帰ろう、という映画だと思った。クライマックスのfrom now on、名曲、鳥肌が立った。

結末も良かった、レ・ミゼラブルなどでミュージカル俳優として名を馳せたヒュー・ジャックマンが「子育てさ」などと冗談めかしながら、
ハイスクール・ミュージカルで人気を博した若手スター、ザック・エフロンに後を任せて、家族の元へ、
音楽も、クラシックやカントリー風から、ポップへ、

世代交代をポジティブに匂わせたあたり、好みだった。イマドキの若い子のほうが人種や性差の偏見がない子が多い、という事情も汲んでいる、ハリウッドで最近、育休を宣言して活動休止したのはマット・デイモンだっけ、そうだよなあ、ある程度キャリアを積んだからこそ、仕事を若い子に任せて家庭を楽しむことも大事…いろんなことを思った。

ロッテントマトなど、映画評論家による評価はイマイチだったけど、巷では口コミで大ヒットした、というあたりも、映画の内容と相まって痛快。
アカデミー賞受賞式でTHIS IS MEを歌ってみせた、あの権威的な場に、大衆エンタメが殴り込んでいった、マイノリティによるパフォーマンス、かえすがえすも良い…!と思った。なんで歌曲賞取れなかったんだろうね!? ちょっと悔しいね。

君がやってることは所詮偽物、観客を騙しているだけだと馬鹿にされたり、自分は本物を知らないんじゃないか、そんな物差しを持ってないんじゃないかと不安になったり、上流階級には敵わんと思い知らさせたり、成り上がりの引け目を虚飾で覆い隠そうとしたり…
ちょっと、身に覚えがある感覚だったので、震えた。ドラマ映画でこのへん深くシリアスに掘り下げられてたら再起不能なくらい泣いてたかもしれない。ミュージカル映画で良かった。でもそっち路線も見たかったな…

とにかく音楽で圧倒されたなあ…どんなミュージカルにも一曲はみんなが大好きな良い曲がある、と言ったのは三谷幸喜のオケピ!だったっけ、ミュージカルを見てガッカリしたくないから、好きな曲と一曲、二曲出会えれば充分だと思ってきたけど、
ミュージカルで捨て曲ナシってすごくない?
リードシングルが好きなら全曲好きでしょうという強気のラインナップ、バラードも含めて全曲パワフル、圧倒的歌唱力、男同士の対決ソングもあれば、両片思いデュエットもある、聴きたい曲は全部ある、
売れるミュージカルとして計算されすぎでは??
子役といい、よくもまあ、こんなに歌の上手い俳優陣を集めたな??という気持ち、

だからこそ、オペラや演劇にも精通する専門家の評価が辛くなるのはわかる気がする…

でも大衆はこういうのが好きだし、
マイノリティに居場所を提供してやったマジョリティという構図はもうちょっと打ち崩してほしかったところだけど、
辛いことがあっても逆境に負けずに前を向いて気高く生きていくと宣言する、あれは普遍的な感覚…私は虐げられたマイノリティ側にも彼らを奇異の目で見るマジョリティ側にも、夢に向かって働く男側にも家庭をおろそかにされた女側にも感情移入しながら観たので、
全てがハッピーエンドに向かっていって、ストレスは…少なく済んだな…
ジェニー・リンドの強かさも好きだったよ、本来ドロドロしたドラマ部分をさらっと。上手に描いてたよねえ…

久しぶりにこういう、大衆ウケする映画を、映画館の大きなシアターで、大盛況の中で見たので、周囲の感想を聞きながら、これは…シェイプ・オブ・ウォーター やブラックパンサー では届かない客層に届く映画だ…としみじみ思ったな…
シェイプオブウォーター はクセあるし、ブラックパンサー はやっぱり、漫画とか特撮とか、物語を見慣れてないときっと難しいもん、これは理屈抜きで圧倒される、パワーがある、これぞ音楽の力、エンタメ・ミュージカル…

そういう意味では、もうあと一歩、俺たちを差別するのはやめろ! わかった、差別してきたのは認める! これからは一緒にやっていこう! よーし、ムカつくけど、許してやる! という端的なメッセージが欲しかった、けどな、うん…

自身の差別性を認めるのは難しい、しかし、いままで誰かを傷つけてきたことに気付いて、認めるところからしか、歩み寄りは始まらない、という、ここ数年の個人的な実感があるので、そういう意味では、もうちょっと強烈に殴ってほしかったな…

しかし、ゼンデイヤがカッコよかったなあ〜! スパイダーマン・ホームカミングからすっかりファンだ。THIS IS MEでザック・エフロンをキッと睨みあげて踊る姿…ベッドの横で鼻を赤くして泣く姿…良かった…

ヒュー・ジャックマン好きなので、バーナム役やるの!?大丈夫!?って感じだったんだけど、相変わらず楽しそうにミュージカルやっててなにより、良い仕事をしてくれた〜! ありがと〜!という気持ち。
スターウォーズep8に絡んでマーク・ハミルが、最初は脚本に難色を示したけど、完成した映画を見て、これで正しかったと思った、素晴らしい映画に自分の個人的な思い入れでケチをつけるような軽率な発言をしたことを後悔している、と正直に声明を出したことにも尊敬の念を抱いたけど、
白人男性がやってきたことを白人男優として引き受けて、世代交代のメッセージを含めて、責任を持って演じる、という仕事に、どうにも感動してしまう…

ザック・エフロン、やっぱりミュージカル俳優として輝いてたよな…
ララランド効果でオリジナルのミュージカル映画が作られる機運が高まったのだとしたら、本当に素晴らしいことだし、
そしてその土壌を作ったのは、ドラマgleeの成功だったり、ディズニーチャンネルのミュージカル・ドラマだと思うので、
別段ファンだったわけじゃないけど、彼がミュージカル映画で活躍するのは嬉しい…今後アナ・ケンドリックあたりとも組んで新作撮ってほしいなあ…

そしてやっぱりサーカスの迫力に圧倒された、シルク・ド・ソレイユを観たくなった…あの世界観にはどうしたって惹かれるんだ…rewrite the starを映画館で見れたのもよかったな…

ミュージカル映画って、いまのご時世、やっぱりどうしたってミュージック・ビデオと比較されない? カット割りしてしまうと演劇の迫力にはもう敵わないでしょ? ララランドもラストの10分弱の映像美にポカンとしてしまって、もうこれだけでいいじゃん!? と思ってしまった人間なんだけど、
これは、サーカスという好きな題材も相まって、舞台の匂いがしつつ、往年のミュージカル映画の雰囲気も感じさせつつ、MVにとどまらず、
そのバランス感覚が好きだったな…オペラはともかく、バレエだとか、「本物」への目配せを感じたので、意図的にやったのではないかなと思う。

これをララランドの製作陣が作ったというのも皮肉が効いてて面白いなと思ったよ、ジャズが好きと言いつつジャズへのリスペクトがないだの言われたチャゼル監督は、どんな気持ちでこれを見たんだろう、なんてな…

偽物と本物の間を見事に突いて、ひとを楽しませたモノが正義と歌う、
ひとを楽しませるためにひとを傷つけるのはダメだよね、という部分もちゃんとわかってるひとたちが作った映画だとわかったので、
これでちゃんと伝わってるのかな…という不安は感じつつも、気持ちよく見れたよ。

日本版宣伝に秋元康や吉本芸人を起用したあたり、失笑してしまったんだけど、
日本のエンタメ業界も自浄していってくれよな…この映画の上澄みだけをすくって都合良く解釈して、
居場所を与えてやったんだからと弱者を搾取するな、居場所を与えてもらったんだから理不尽に耐えなくちゃと搾取されるなよ…!!
という気持ちになったことも書いておくね。ほんと頼むぜ…セクハラパワハラが当たり前なひとたち、ひとの痛みに鈍感なひとたち、鈍感でいられる、特権階級にいるひとたちが作ってるモノ見ても、いよいよ笑えなくなってきてるからな…頼むぜ…

なにはともあれ、エンタメの力を信じたいというポジティブな気持ちにさせてくれた、ので、ありがとう。見てよかった。
るる

るる