こたつむり

アサイラム 監禁病棟と顔のない患者たちのこたつむりのレビュー・感想・評価

3.7
♪ 幾千の星に抱かれて 
  ロマンを叫び続けて
  さびついた時は流れて 
  君は確かに震えていた

…吐く息は白く、霧と同化した。
門扉の向こう側にそびえる屋敷も見えない。
やがて、精神と肉体の狭間に揺れる想いは不安定になり、視線も揺れた。ゆらりゆらり、と。

おふおふ。これは良い雰囲気ですよ。
何しろ、舞台は19世紀の精神病院。
思わず「猟奇!」とか「サイコ!」とか「肉片!」とか叫びたくなる空気感に満ちていて、好奇心を巧みに刺激してくるのです。

しかも、原作はエドガー・アラン・ポー。
おふおふ。推理小説の“始祖”じゃないですか。
これに萌えずに何に萌えろと言うのか。
もうね。ミステリ好きならば琴線に触れるのは間違いなしなのです。

が。が。ががが。
主人公がねえ。見習い医師という立場なのに、色恋沙汰に理性を失う部分に共感できないのですねえ。この辺りの心情を丁寧に描いていれば…かなり評価は高くなったと思うのですが…。

でも、でもですよ。
きちんと表と裏を反転させる展開や、人間の尊厳について考えさせる部分もありますし、何よりも全体を俯瞰すれば精緻な作りなのは間違いなし。早々に見切りをつけるのは勿体ないのです。

また、いぶし銀の役者さんばかり揃えているから、地味ながらも堅実な描写に口角が上がる次第。低予算だからか、全体的に映像が明瞭なのは雰囲気を損ねていますが、その辺りは生温かい目で見るべきなのでしょう。

まあ、そんなわけで。
期待値を高めずに臨めば十分に楽しめる佳作。
19世紀の人里離れた精神病院…という舞台設定に反応する向きならばオススメです。また、グロテスクな表現も少ないので(皆無ではない)血や臓物が苦手な人も大丈夫だと思います。

ちなみに本作を仕上げたのは『ザ・コール 緊急通報指令室』のブラッド・アンダーソン監督。なるほど。娯楽要素が強いサスペンス映画はお手の物なのですね。
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