OASIS

完全なるチェックメイトのOASISのネタバレレビュー・内容・結末

完全なるチェックメイト(2014年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

伝説的な天才チェスプレイヤー、ボビー・フィッシャーの半生を映画化した伝記映画。
監督は「ラスト サムライ」等のエドワード・ズウィック。

チェスのルールなんて全く分からないし、チェス映画と言えば同じくボビー・フィッシャーの再来と言われた天才少年ジョシュを描いた「ボビー・フィッシャーを探して」を観たくらいのもの(あちらもあちらでまた良作映画)。
結局最後まで観てもチェスのルール自体良く分からないままだし、ボビーが一体何を考えているのかも分からないしで消化不良気味で終わってしまった印象。
まぁ、天才と呼ばれる偉人の頭の中を覗こうとするなど得てしてそういうものだとは思うのだが、チェスの試合を通してその狂気染みた先鋭的な世界の一端を垣間見れたという点では興味深かった。

映画は、アメリカとソ連が冷戦下にあった1972年を舞台に、世界最強国であるソ連の王者スパスキーと対局する事になったフィッシャーの苦悩が描かれて行く。
生い立ちや天才として頂点に登りつめて行く過程はシンプルに軽やかに描いて大胆に省略、世界王者決定戦をメインに据えて進行して行くという見せ方を絞った作りだった。
チェスの指し方の上手い下手は素人からすれば全くもって判断が出来ないし、好手か悪手かという対局の流れを決める肝心な一手も周りの反応で「あ、今のは悪い手なのか」と感じれる程度のものだが、その点はセコンドやらが分かり易いリアクションで教えてくれるので何の問題も無かった。

チェスの対局よりもどちらかと言えばフィッシャーの奇人変人っぷりがフィーチャーされていて、ありとあらゆる場所に盗聴器が仕掛けられていると主張し「俺は見張られているんだ」という被害妄想を爆発させたり、共産党員やユダヤ人を目の敵にしたりと、自分一人だけでなく周囲を巻き込んだ迷惑極まりない奇行が炸裂していた。
微かな音にさえ過敏な反応を示してしまう神経質な部分は本人にしか分からない世界であり、それで時間稼ぎをしているとなると相手側からすれば「はは〜ん、さてはこいつ俺をイラつかせる為にワザとやってるな」という宮本武蔵的な戦法なのかと勘違いされてしまう訳で。
相手を苛立たせるかそうはならないか、また、それを分かってやってるのかやってないのか、フィッシャーという人間を嫌いになるかなるかならないのかのギリギリ瀬戸際で留まったのはやはりトビー・マグワイアの演技力か。

対局シーンの緊迫感も中々で、静寂の中チェスの駒の音だけがカツカツと響いて来る耳心地の良さも気持ち良い。
ただ、メインは「伝説の一局」と呼ばれた第6局にフォーカスされていて、故に中盤に最も盛り上がりが用意されいる為残りの対局に消化試合感を感じてしまった。
1局、2局と極力省略せずに丁寧にゲームを追っていたのはその為であったのかと。
伝記ものの映画の中では比較的後日談が長めに描かれていたので、もっと切り取れる部分は多いとは思う。

前述したようにチェスの本格的なルールについて教えてくれる親切設計では無く、かと言って「カイジ」のように心理描写の鬼という訳でも無くあくまで伝記ドラマとしての面白さ。
もちろんチェスに詳しければスタンダードな戦略からは外れた奇手の凄さも感じられるとは思う。
「ボビー・フィッシャーを探して」と合わせて観たい一本だった。