ぼぶ

怪物はささやくのぼぶのレビュー・感想・評価

怪物はささやく(2016年製作の映画)
4.8
一見、ホラー?ファンタジー?子供向けかと思いきや、大人向けじゃん!寓話的なやつ?!
みたいに浅〜く感じるかもしれないけれど、それぞれのカット、言葉、意味のあるカメラワークを汲み取れると、きっと完成度と人生におけるこれを観た価値がわかって、めちゃくちゃ良い映画だと震えるはず。
それくらい、しっかりよくできている。
美しい眼差しだった。

12歳、コナーは少年と大人の間で揺れ動いていた。
病気を抱えるお母さん。
数年前の女性らしいロングヘアの写真の写る写真立てと、開かれた三面鏡がまるで写真の様に映し出すベリーショートの今。
そこからさりげなく何度も挿入されていく、コナーやお母さんやお婆ちゃんお爺ちゃん…らの、写真たちのシークエンス。
お爺ちゃんの映写機のシーンも大事だ。
コナーにお母さんは「あのお婆ちゃんもメロメロだったのよ」と話す。(会ったことないんだな。)
そしてその映写機でお母さんと観るのは『キングコング』。怪物なんだけど、最後は可哀想になるくらい、悪とも善とも言えない複雑な存在。そして最後は手を離して、コングは落ちてしまう。
でも映画中に先に寝ちゃったり、どうやら、お母さんの病気は重くなっていってる様だ。

コナーの目の下にガッツリとクマが出来て、先生に心配されるくらい寝れないのは、絶壁でお母さんの手を何とか掴んでいるけど、落としてしまう悪夢を見るから。
そんな絵を描いてたある夜、12:07にお母さんが回復の木だと教えてくれていたイチイの木が怪物となって、現れる。

怪物「3つの物語を話そう。その後、4つ目の話は、お前がするんだ。」
1.善と悪は表裏一体で、混在している。見る角度によって評価は変わる。人間とは矛盾をはらむ複雑なもの。
2.信じることの大切さ。揺るがない大切さ。そしてここでも改めて、嫌なやつだけど正しい調合師…善悪の一体や人間の複雑さ、矛盾。
3.透明人間は注目されることによって、無視され透明さを増した、矛盾。

また、人間は、自分の心が楽な方に物事を捉えたくて、それが本質を捉えていなくてもある角度から見てそれが都合良ければ、偶像を信じてしまうということ。
何を考えるかでなく、どう行動をするか。
目を向けるのが辛いことでも、本当は、実は、もうわかっていること。
そして、わかっているなら語らねばならないこと。言葉にするのが一番なこと。
…などなどを、怪物は教えてくれる。

不条理と矛盾の物語を話す怪物にも善悪はなく、助けてもくれないし、悪い事もしない。ただ、真実から目を背けず言葉にして強く生きることを求めながら、コナーを癒すだけだ。(怪物の声はリーアムニーソンだ。

4. 4つ目は、真実を語ること。
これを語ったコナーは、一つ少年から大人へ階段を上る。
そして胸の中をちゃんと言えるようになって、最後の12:07を迎える。
早く終わらせたくて、行かないで。
少年は母親を抱きしめて、それでやっと手放せるわけだ。

他にも良いシーンや要素が、沢山。
「暴れても良いんだよ」「100年あれば良いのに。100年一緒に居たかった。」って言ってくれる、お母さん。
破壊後の居間で映し出される昔のビデオ。
抱きしめ合うお婆ちゃんとコナーを、列車の明かりが照らすところ。
病室で12:06〜07になる時の怪物の表情と、それを見つめるかのようなお母さん。
最後の、実はあの部屋は…物語は…なシーン。

あと、罰を!罰は?って罰にこだわる各シーン。(お母さんを想うが故に…でもだからこそ、罰されたいってことなのかなーと。

『A MONSTER CALLS』というタイトルも良い。
放題は怪物が“ささやく”のみだけど、CALLには呼ぶとか言う以外にも、いざなうとか呼び掛けるとか思い起こすとか手札を全て見せるとか、色んな意味があるからだ。

冒頭、ビデオでお母さんと書くコナーの怪物の絵、そして怪物の物語などの印象的な水彩画タッチのイラストアニメーションも美しく、映像美にも魅力された。
またピアノのみや、シンプルなストリングスでの音楽表現も、好印象であった。

美しい眼差しだ、よく眠れるね。
ぼぶ

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