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リリーのすべてのan0nym0usのレビュー・感想・評価

リリーのすべて(2015年製作の映画)
4.3
ある芸術家の、実話に基づくストーリー。
エディの魂のこもった演技は必見。
トランスジェンダーをモチーフにした美と愛の表現を堪能して欲しい…素晴らしかった。

美術品を鑑賞して、その表現に思考を揺蕩わせる…そんな感覚に近い。とても崇高で神々しくさえ思えた。感性を揺さぶる。

倒錯と陶酔…耽美主義的。
芸術性も際立っていて、鮮烈に映える。

風景画しか描かないアイナーと、人物画しか描かないゲルダ…その二人の姿は、自分と向き合うのか、相手と向き合うのかという対比だとも思えた。

表面的ではない部分にも、圧倒されてしまう。アニマ・アニムスには詳しくないけれど、女性と鏡面で重なる場面には、思わずゾクッとしてしまった。

現実と理想とが重なる絶頂感…
きっとそれは美の真髄…その片鱗。

例えばそれは、ゲルダの絵。凡庸であったはずの彼女の絵が評価されたのは何故か…

視線に刺激される自意識と、絹の手触りの滑らかな恍惚…抑圧される美意識の中で、自らの在り方を問う葛藤と解放の渇望。

描かれる事で、リリーが受肉された。

完結されていないからこそ表現される、生々しく魂の宿った美。
それが観る者の心を掴んで離さない。

風景画に感じる閉じ込めるような重苦しさ。世界を写す水面が、その水面下に拡がる精神性を想わせる。雲の切れ間から降り注ぐ陽光は祝福の鐘の音のよう。玲瓏たる生命。陶然とした吐息が漏れる…

女性としての魂が女性の肉体を得て完成した事で、満ち足りた魂が浄化されて器から離れた…スカーフが風に舞う光景には、感極まって涙が出てしまった。

多幸感に包まれるような余韻。
すごく洗練された…たおやかな感性。

取り留めもなく言葉を羅列するしかできないのがもどかしくなる…でもたぶん、正しく言語化できないからこそ、音楽や絵画や映画が必要なんですよね。こういう得難い経験を与えてくれるから、映画を観るのはやめられない(*´꒳`*)

365マーク目になる今作。
よい作品に出会えた事に感謝✨
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