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軍中楽園のNMのレビュー・感想・評価

軍中楽園(2014年製作の映画)
3.5
よくある戦争ものとも恋愛ものとも違う、個性を感じる作品。
はじめは明るいな雰囲気だがどんどん変化していく。


台湾の純朴な青年ルオ。
中国の対立が激化するなか、中国と台湾の間にある金門島に配属されてしまった。この最前線で空爆は日常、島には何万もの軍人が送り込まれている。
海岸や海中で主に体術戦に当たる部隊のようで、常に海パンで訓練している。短剣での接近戦や遠泳の訓練が多いのが特徴。

青年ルオははじめからすんごく行きたくなさそう。
性格のせいのみならず、実は泳げないという理由もあった。純愛中の婚約者も残してきたから生きて帰りたい。

もちろん訓練はハードだし、上官はめちゃ怖い。
だが観ていくと、イメージしていたほど厳しくはないと感じる。この時点では。
ありがちな上司の暴行や理不尽な侮辱などはあまり映っていないし、同僚たちと休日に町を歩く様子はまるで観光客のよう。江ノ島みたいな雰囲気さえ感じる。
特に士官長ラオジャンが、実は鬼ではないことも判明。赤ちゃんが好きだし、娼館の美女アジャオに骨抜きにされている。意外と単純で気のいい男だ。

泳ぎが下手過ぎてほどなく転属させられるルオ。

配属先はラオジャンの通っていたあの娼館。
軍の養成で開設され、直属の管理下にある。ここでルオは受付から雑用までなんでもするらしい。
ここがこの作品の注目された点。
こういう軍直轄の娼館が映画で描かれるのをはじめて観た。こんなふうに直接運営していたのか。売上だけ管理して時々監視とか巡回に来るぐらいかと思っていた。

ここに通っていた昔の親友ホワシンと偶然の再会。
しかし彼は塹壕掘りに配属され毎日激しい暴行や虐めを受けており、浸水している不衛生な部屋で皮膚病も患い、生きる希望を失っていた。

士官長ラオジャンの壮絶な生い立ちも判明。実は子どものころ村に来た軍に誘拐同然に連行され、家族と連絡も取れず何十年も入隊させられたままでいるのだった。

二人とも娼館の女性に心を寄せているが、どうしようもない思いをひとときの間癒やされに来ていることが想像できる。

やがてルオも婚約者に別れを告げられ一人になった。
館にいる影のある美人ニーニーと仲良くなっていくルオ。
ニーニーはある理由があって自分から志願してここへ来ていた。
他の女性たちもそれぞれ様々な理由があってここにいる。出ていけない事情がある。
実情はとても楽園とはいかない。

無事ルオやニーニーたちは幸せになれるのか......。


戦争なので物語はあまり明るくないが、そんななか月下美人が咲いたりまぶたに口づけしたりと唯一というぐらいロマンチックなシーンがあり、泥に咲く花のようでとても際立ってみえた。体を重ねながらも、ギターを教わったり黙って花を贈ったりと純愛っぽさもある関係。

士官長ラオジャンは見どころの一つ。
一見すると鬼上司、だけどただの単純で気のいい男。壮絶な過去があるがそれを隠して生きている。孤独なまま中年にさしかかり、最後の希望に裏切られ、親孝行どころかその反対に陥り、何もかも失った。
アジャオだって、普通の幸せが欲しかった、どうしても。いっときの幸せではなく、本当にゆるがなく安心して生きるためのことを深く考えていた。日々屈辱を受けるなか、ここを脱出するには誰も信じず男など踏み台にして生き抜かなくては、と固い決意があったのだろう。しかしあるときふとやり過ぎてしまい、夢は果たされなかった。ひょっとすると、チャンスがあるなら誰であれ男を傷つけてやりたいという思いがあったのかもしれない。もしかしたらそのために生きているよう面もあったのかも。悪魔になりきれなかった普通の人間という印象。

ルオ役俳優の演技も良かった。
新入りである身分からいって饒舌に話せるシーンというのは少ないので、表情だけでいやだ~とかうわ~とか心情を表すのが上手くて良い。キリッとすると強そうだが、青空を見上げるときは目が垂れて優しそうになり表現が豊か。話が進むにつれ険しくなっていく。
全て話さなくてもみんな顔で十分何かを伝えてくれるので、アジア圏の映画は個人的にとてもわかりやすいと改めて感じた。

娼婦のなかにやけに恰幅が良くいつも苛ついている、感じの悪い女性がいたが、最後を見るとああそのためだったかとほっこりした。本人も仲間たちの雰囲気も一変し、まるで家族のよう。
しかし、当日まで働かねばならずそもそも誰にも打ち明けられなかったということは恐ろしい。二人とも死んでいておかしくない。その後少しは休みがもらえたのだろうか。

全体の絶妙な明度と、劇伴が全て良い。あまり演出しすぎず自然。

最後のモノクロが良い。運命が違ったらこんな未来だって可能だったはずなのに。

これが90年代まで存在していたということに改めて驚き。
ただ、タブーだった存在を描いたことには目が行くが、単にそれだけでなく物語性、特に軍人たちや事情のある女性たちの恋愛や夢のはかなさが一番のテーマかと思われた。
いっときの興味だったはずが、鬱憤や悲しみを忘れさせてくれる存在になりどんどんのめり込んでしまうということはきっとありえるのだろう。
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