鋼鉄隊長

インクレディブル・ファミリーの鋼鉄隊長のレビュー・感想・評価

4.5
TOHOシネマズ梅田にて鑑賞。

【あらすじ】
かつて人々を守ってきたヒーローは活動を禁じられ、ボブたちヒーロー家族も静かに暮らしていた。そんな中、ヒーロー活動を再び認めてもらおうとする極秘任務にヘレンが選ばれる…。

 ヒーローは遅れてやってくる。実に14年ぶりの帰還。懐かしい! 当時この映画に熱狂していた小学生の僕も、今ではすっかり大人になってしまった(中身は変わっていないが)。しかしまさか前作の最後に現れた怪人アンダーマイナーとの戦いから描いてくれるとは。一気に昔の思い出がよみがえるような気分であった。ジェットモグラのような地底戦車、好きだったなぁ。ピクサー最高!ありがとう!
 そして改めて作品の世界観を、良識ある大人のオタクな視点で見てみると色々気づいたことがある。この物語は昔の世界を描いているのではないだろうか。時代にすると60~70年代くらいか。離れた家族の会話は(ヒーロー用のマシーン以外では)固定電話で行われ、テレビには白黒の怪獣映画(『原子怪獣現わる』や『怪獣ゴルゴ』がモデルと見た!)やセル画アニメが映し出される。ボンドカーを彷彿とさせる車にレトロなBGMとくれば、もはや偶然の結果ではないだろう。
 では何故、舞台が過去に設定されているのか。これがわかれば『Mrインクレディブル』が10年以上の沈黙を破って帰ってきた理由がわかる。この物語は現代のヒーローへの挑戦状なのだ。2010年代以降、数多くのヒーロー作品が公開された。アメコミ映画は量産され、日本でもウルトラマンなどの作品が毎年制作されている。そしてその中でほとんどのヒーローが「時代に合わせた変化」を遂げた。絶対的な正義は崩壊し、半人前の英雄が成長する物語が増えてくる。この変化は作品を大人の鑑賞に堪えうる品質に向上させたが、その一方で「僕らのヒーロー」を否定してしまった。スーパーマンは恋人のために戦い、ウルトラマンは自身の成長のために怪獣を倒す。『インクレディブル・ファミリー』はそんな自分のことでいっぱいいっぱいになった戦士たちに、昔気質な正義感が通用することを示している。家族で映画を観に行こうとしていても、悪党を見れば嫌な顔ひとつせずにヒーローに変身する。それでいて仮面を外せば、学校の課題や恋愛、育児などに悩む人並みな姿を見せる。強い信念があるからこそ戦える。絶対的正義は不滅なのだ。この映画はかつての絶対的超人と現代の人間臭い英雄を実に上手く融合させている。そうそう、こういうのが観たかったんだ。これは最高のヒーロー映画である。
鋼鉄隊長

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