ぬ

LION ライオン 25年目のただいまのぬのレビュー・感想・評価

4.4
めちゃめちゃいい映画だった…声出して泣いた…
おかげさまでカリカリのドライアイがうるおいました。

5歳のとき故郷インドから1000km以上も離れたコルカタで迷子になり養子としてオーストラリアの家で暮らすようになった主人公サルーが、思い焦がれた故郷をGoogle mapで探し、25年ぶりにふたたび故郷を訪れるという話。
(映画のもとになった実話が事細かにアンビリーバボーのサイトに載ってるので、映画を観終わったあとに読んだら理解が深る!)

実話をもとにした話だし、タイトルや予告なんかでストーリーの大筋やオチはもうほぼわかった上で観ていたんだけど、それでもこうして映像としてひとつひとつを観せられるとすごくショッキングで、観る価値あった。

話もいいし、演技もいいし、映像もいい。
特にインドやコルカタでの景色は印象深い。
サルーとお兄ちゃんを演じてる子役がとても愛らしく素朴で自然で本当に兄弟のようで、話に入り込みまくってしまう。ものすごくいい。

貧しくてご飯を食べるのもやっとで、家族を捨てて出ていった父親のに代わり建築現場で忙しく働くお母さんを支えるために、5歳やそこらの兄弟が列車に乗って働きに行く…
そんな小さな子どもが毎日あくせく働くなんて…自分が5歳の頃を思い出すと、とてもじゃないけど考えられない。
しかし貧しいながらに、ときには優しい母に甘えたり、家族と一緒にご飯を食べたり、兄弟とはしゃぎ合ったり、温かい家庭でサルーはとても幸せだったと言う。

5歳の子どもが家族とはぐれ、さらには言葉の通じない国でひとりで彷徨い、臓器売買や金儲けのために子どもが大人に狩られるような状況で生きるとか、大人も警察も頼れない信じられないような状況とか…
どんな気持ちだったかどんなに不安だったか、想像を絶する。
というか、もうこの映画のエピソードがいちいち想像を絶することしかない。
波瀾万丈とはまさにこのこと、っていう人生。

そして故郷から遠く離れたオーストラリアで暮らすサルーが、生活の中でふと思い出す、幼少期の兄弟との何気ない記憶のシーンがものすごくいい。
過酷な仕事でもお兄ちゃんとなら楽しくこなせた思い出だったり、自分のせいでお兄ちゃんが怒られてしまった思い出だったり。
この映画はサルーの生みの親と育ての親がとてもキーになっている映画なのですが、個人的は何よりサルーとお兄さんの兄弟愛が一番印象に残っている。

養子となり大学にも進み、充実したキャンパスライフを送るサルー。
一人でファーストフードを食べていると目に浮かぶのは、目の前の席の残飯をコソコソと食べ、こちらに目で合図する幼い頃の兄の幻影。
「自分は今養子として充実した暮らしができているけど、兄弟や家族は自分が無事であることも知らず、迷子になったその時からずっとずっと自分を捜し続けていて、そしてまだインドで貧しい暮らしをしているんじゃないか…」というサルーの気持ちが痛いくらい伝わるシーンだった。

ストーリー的に血のつながりや、生みの親の大切さなどのメッセージ一色なのかと思いきや、そこで出てくるのがサルーの養父母。
サルーの養母は幼い頃の実体験から、「実の親子だからといって、必ずしもいい関係を築けるとは限らない」と悟り、血の繋がりに拘らず、我が子としてサルーを養子として受け入れた。

そのエピソードによって、サルーとインドの家族との血の繋がりやともに暮らした家族の絆を描きつつ、養子という形の血縁関係に拘らない家族のあり方も肯定する映画の姿勢がよかった。

みんなにおすすめしたい映画でした。
ぬ