塩辛亭ショッパイ

LION ライオン 25年目のただいまの塩辛亭ショッパイのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

 迷子になってからの引き込まれ方が尋常じゃない。こりゃ絶対に最後まで見届けよう──となること必至の一作。

 子供時代に迷子になった経験は誰にでもあるだろうが、どうせでデパートで迷子になって大泣きしたのちに「〇〇ちゃんのお父さま、お母さま、いらっしゃいましたらサービスカウンターまで……」ってなる程度だろう。優しそうなおばちゃん店員に飴もらって泣き止んでるはずだ。
本作の迷子はその2億倍のスケールでお送りしているといっても過言じゃない。ってか、逆に日本の治安の良さどうなってんだよ!と、どうでもいいところに感心してしまうほど世界の迷子がすごい。
 
 2〜3日も列車で遠くに連れて行かれようもんなら涙枯れるまでいってもおかしくないのに、1人で家に戻ろうと奮闘するサルー君のしっかり者ぶりたるや。その真骨頂は「人身売買に気づき逃げ出す」というまさかの〝直感力〟にある。いや、ずっと野宿してた状態からのあったかいお布団からのジュースのコンボでこられてよく警戒心解かずにいられたな! すごすぎる。こんな子が『はじめてのおつかい』に出ても撮れ高ゼロに違いない。

 この壮大なドラマが大人編に突入すると、文明の利器グーグルアースが登場するわけだが、そのギャップもまた良いよね。

まぁサルー君がどれだけ帰宅に難航・葛藤しようとも、タイトルに『25年目のただいま』とあるので、完全に「おかえり〜」な展開になることは決まっているのだけれど、そんなことはどうでもいい(まぁできればそんなタイトルにしないで欲しかったけど)。演出上、家族との再会以上に重きを置いているのは、兄の不在の理由だったから。
 
25年ぶりに故郷に帰ってきたサルーが兄との記憶を重ねながらひとり線路を歩くシーン。画はなく字幕のみで明かされたのは、兄が「サルーが無人の汽車に乗った夜、別の汽車にはねられて死んでいた」ということ。

 お兄ちゃんは事故にあった瞬間も弟を探していたのではないだろうか。どこにいるのか、ここにいるのかと必死に捜索していたからこそ、近づいてくる汽車に気付けなかったんじゃないか。真実はどうであれそう思わずにはいられない。そんな想像の余地を残した、どこまでも抑制のきいた演出に涙腺パッカーン。
塩辛亭ショッパイ

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