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オーバー・フェンスのKKMXのネタバレレビュー・内容・結末

オーバー・フェンス(2016年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

 聡がヤバすぎる。とにかく、聡のインパクトが強かった!痛々しくて気持ち悪い。執拗な鳥のモノマネや幸福の絶頂から一気に絶望と憤怒の色に豹変する眼差しとか、聡の強烈な行動を見ていると、「なんという孤独で寄る辺のない、愛を求めても決して得られない世界に聡は生きているのだろうか」という彼女の生き辛さに思いを馳せます。
 しかし、同時に、「マジでこんなボーダー女に関わったら一巻の終わりだわ、クワバラクワバラ」って気持ちが沸きました。
 人として付き合うには、聡は百害あって一利なしの最悪なタイプです。

 動物園の柵を開けまくる聡が逃げないハクトウワシを見て、「なんで逃げないの!」と叫ぶシーンは特に悲しかった。聡には柵の外の世界なんて実はないし、その無情な現実を象徴しているようにも思えて苦しかった。
 その夜に白岩が見た家にやってきたハクトウワシは彼の幻だろう。ハクトウワシははばたくことはない。この作品で聡は永遠に無間地獄を彷徨い続け、成長できないのだから。

 ラストも意外としんどかった。爽やかに終わったけど、あの後はどうせ白岩と聡はなんかのきっかけですぐ修羅場を迎えてグチャグチャになるのは明らか。一見ハッピーエンド風だがなんも変わらず堂々巡りだよなぁ、なんて感じました。

 もうちょい聡の背景を描いてくれたら、とか思いましたが、離れに住んでるとはいえガラスが割れて男と怒鳴りあっても、家族が誰ひとり介入してこない家に育ったんだな、ってことは解りました。離れのキッチンで行水するところを見ると母屋には一切近づいていないんだろうな。家族の断絶を感じます。

 聡もつらいけど、森くんもキツかった!数少ないセリフで精神的に母親の支配下にあることがわかる森くん。訓練校を辞めさせられたあと、一瞬母親と買い物をしているシーンが映ったが、胸が抉られました。正直、この1秒くらいの場面が本作品中で一番印象に残っています。彼も自分の人生を生きられないんだよね。

 白岩はしょうもないヤツだな、という感想です。元妻を追い詰めたとか言って自己憐憫に酔っているだけ。あの調子では仕事も自分と向かい合うのが怖くて多忙に逃げてたクチだな、って想像できます。
 まぁ元妻の前で泣けたのは良かったね。この時、元妻との関係に区切りをつけ、成長して前に進めるかと思いきや!相手が聡じゃ消耗するだけ。なにせ直後に聡が車でストーキングしているホラーシーンが入ってくる訳だから。

 登場人物がぜんぜん成長しない作品であります。その意味では好みの物語ではなかったのですが、登場人物を長々と考察できる、とっても観応えのある映画でした!演者はみな最高。蒼井優は天才ですな。


 そして…感想文を書いた後に知ったのですが、
どうやら原作では、聡はあんな性格ではないそうです!
 白岩の成長を描くことに焦点を当てたのであれば、キャラ改変は失敗だったと言わざるを得ないですが、映画を刺激的にしたかったのであれば改変は成功だったと思います。聡があんなボーダーじゃなければ、物語は完全なる別物になりますね。
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