GUMI

この世界の片隅にのGUMIのレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
4.5
普通の人を通して見るからこそ見えてくる。
戦争を見つめる新たな視点。

「死」のイメージがつきまとう時代背景なのに、力強い「生」を感じる作品。
阿鼻叫喚な表現だけが悲しみを表す方法じゃない。




広島市から呉市に嫁いだすずさん、のんびり屋だけど目の前をより良く楽しく過ごそうとすることに誇りを持っている。
毎日の家事の工夫でモチベーションを上げたり 家族とたわいも無いことで笑いあったり…辛いことがあってもいつまでも悲しまず先を見て突き進んでいく。

フェミニストではないけど、どの時代も主婦は強い。
特にこの時代は嫁ぐ=相手の家に入るということ。自分が潰れないように敢えて図太く生きる力強さ。
ガタイがいいわけじゃないすずさんがとても大きく見えた。


現代人から見ると結果的に激動の時代を生きた人だけど、自分たちと変わらないか それ以上の向上心や感覚を持った人たち。「戦時中を生きた人」ではない。

そんな私たちと変わらない意識を持った人たちが大事にしてきた"普通"を外的な理由で奪われてしまう。
戦争と災害の悲劇のレベルは比較できるものではないけど、喪失の恐ろしさをリアルタイムで知っている現代人ならどこかに思い当たる感情が湧くんだろう。
ひと時代前の出来事·歴史の一部として捉えていたものが、今までより質感をもって感じられる体験だった。

いち庶民のすずさん達と私が見ている空は同じような色をしていただろうに、その空で戦闘が繰り広げられていたことが改めて信じられない。
それが信じられないのはすずさんたちも同じなはずで、日常と戦争の産物との差に愕然とする。ついさっきそこにあったはずのものが、ない。



のん大絶賛だったので楽しみにしていましたが、彼女のイメージそのまま和やかな声。その奥に頑固さが秘められているのがよく表現されていて、いつまでも聴いていたい心地よさ。
ほそやんとのイチャイチャ場面も微笑ましい。このテーマでニヤついてしまうとは予想外だった。



エンドロールが流れ始めてから映画の世界が日常の空気に戻ってく内、どんどん"普通"の重みが押し寄せてきて…劇場を出た後にグワッと来ました。

もっと"普通"を味わって生きたい。
1年を振り返るタイミングでこの作品に出逢えてよかったと思う。
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