けーはち

湯を沸かすほどの熱い愛のけーはちのレビュー・感想・評価

湯を沸かすほどの熱い愛(2016年製作の映画)
3.9
店主である夫(オダギリジョー)が失踪して1年。開店休業中の銭湯「幸の湯」の女将、双葉(宮沢りえ)は末期がんで余命を宣告された。死ぬ前に彼女には絶対にカタをつけねばならない秘密が──カッコ悪いタイトルとベタベタに人生の苦難と家族の絆をテーマにしつつも、ビザールな火力の高い愛のドラマ。

★地味で過激、感情的で技巧的

監督、中野量太。商業長編映画デビュー作とのことだが完成度は高い。

浮気、隠し子、親が本当の親じゃない、いじめ、聾唖、病と死別などといった人生における重苦しいテーマを設定し、伏線➜回収、葛藤➜解決のパターンの繰り返しは地味ながらキレイな話運び。

家族の会話には食事シーンが多用されるが、スキヤキやタカアシガニなどの御馳走が明確なルールに基づく儀礼的な意味を帯びており、ただの他愛もない感情のやりとり、団らんシーンでも飽きることなく観られる。

俳優陣は良い演技だし泣ける場面もあるのだけれど、人生の試練に向き合わされた少女たちの奮闘には、脱衣露出、嘔吐、失禁などという過激な性癖暴露とも言える突飛な表現を多用するし、大人は役割的に明確に振り切れすぎていて(宮沢りえの優しさとパワフルさ、包容力と厳しさを両立したハイパー肝っ玉カーチャンぶりや、オダジョーの終始ヘラヘラして子供をあちこちに作っておきながら誰も何もほとんど責任を問わないモテダメオヤジぶり、無理)ヒューマン・ドラマの皮を着せたアングラ・カルト演劇的な面がある。

最後の最後にはタイトル回収「湯を沸かす」愛で奇天烈な方向に振り切り、観客を「イイハナシカナ~~~~?」と困惑させながら、終了。しかし、確実にザクッと印象には残る。邦画界の切り込み隊長と言えるだろう。

後はくどくどしいタイトルのバックにギャーンと歪んだギターが鳴るシューゲイザー系の主題歌がドリーミーでロックな、この映画の後味をまとめていて良いね!(椎名林檎も手掛けたエンジニア井上うにのプロデュースによるきのこ帝国というバンドの曲)