海

私、君、彼、彼女の海のレビュー・感想・評価

私、君、彼、彼女(1974年製作の映画)
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伸ばした首、曲げた膝、息を吸うたび膨らむ胸、あなたの持つ心がどんなかたちをしているのか知りたくてただみえている体をみつめている。あなたのからだが彼と彼女を通り過ぎ、わたしのところまでその温度を波打たせながら届ける。床は冷たく、窓も冷たく、肉体だけが熱い。永遠に冬の夜がつづけば、永遠にわたしの望みも痛みもさみしさも無事だろうか。いつか出会い、いつかかならず終わる、だからいつもここじゃない気がする。笑いあえている気がしたこと、わかりあえないと拒絶したことを、あなたが眠っているあいだに考えるわたしの心は、あなたを離れ、この国をも離れ、はてしなくとおくまでゆく。あなたが口に出して言ったことと、打ち明けてはくれなかったことの、両方がそのときはわたしだけのものになる。あさがくればきっとこの部屋は温もる、そのときはあなたがたったひとりで幸せになってくれることをわたしは望むんだ。どこへでもいけるのにどこにもいけない。出されなかった手紙はわたしだけを待ちつづける。生きているかぎり、物と大差ない体と、それをゆるしつづける他ない心を、わたしたちはいつ使い果たすだろう。

昔からわたしは、人物の絵を描くとき、顔を描くよりも体を描くほうが好きだった。その理由が、アケルマンの作品をとおしてはっきりと見えてきている気がする。自分のそれについて考えながら、『夏の前日』の哲生は人の顔が描けず、心を見せてくれない晶の体に溺れたのだった、と思い出す。わたしがあの作品に打ちのめされて晶さんのことばかり考えていた数年前は、その理由がはっきりとはわからなかった。しばらく経ってからようやくほどかれるわたしたちの愛や心について考えている。
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