粘度の高い泥沼に沈められたかのような物語。
本作のタイトルを直訳すると「呼吸をするな」。うん。確かに、その状況を真正面から描いた作品でありました。これは自宅ならばヘッドフォン推奨(鑑賞時間は深夜が望ましい)、出来ることならば劇場での鑑賞が一番でしょうな。ポップコーンを噛む音すらも憚れる雰囲気。それが大切だと思います。
ただ、そんな緊迫感溢れる場面も。
一挙手一投足が注目されるギリギリの部分で「次はどうなるのだろう?」という思いを喚起させるには、劇中の人物たちに“共感”させることが必須条件だと思うのです。
しかし、本作の場合。
主人公たちはお金を持っていそうな家に忍び込んだ三人組。つまりは強盗なのです。生い立ちに同情できる部分はあるのですが、それでも劇中で示される行動や感情を見るに、基本的には自己中心的であり、脊髄反射的な行動を取る若者たち。容易に感情を託せる存在ではないのです。
だから、自然と感情は。
“忍び込まれた側”に寄せられるわけで。そのために独特の緊迫感も存分に味わうことができず、どこか中途半端。寧ろ「早くこの三人組を××してしまえ」なんて不謹慎な想いに囚われてしまうわけで。うー。これは自分の中の獣性を問われているのでしょうか。がおー。
しかしながらに、本作が一筋縄でいかないのは、物語が展開していくと“忍び込まれた側”からも感情が離れていくこと。つまり、心の立ち位置が第三者視点になって“宙ぶらりん”になるのです。だから、サスペンスの語源である「吊るす」にピッタリなのですが、どこか中途半端な感覚は否めません。
ホラーは“厭”な気持ちにさせる映画。
という定義ならば、本作は十二分にホラー映画ですよ。確実に厭な気分になりますからね。だから、爽快感とか、納得できるオチとか。そういう明確なものを求めてはいけないのでしょう。あくまでも最後の最後まで“宙ぶらりん”で“厭”な気持ちにさせる作品なのです。
まあ、そんなわけで。
製作者の意図する部分が万全に機能している…という意味では傑作の部類に入るのかもしれません。ただ、個人的には“主人公たちに共感できてキャアキャア騒ぐタイプのホラー映画”の方が好みなので(と今回気付きました)…最後の最後まで中途半端なのは…勘弁なのでした。