しんご

ドント・ブリーズのしんごのレビュー・感想・評価

ドント・ブリーズ(2016年製作の映画)
3.5
R指定のかかった「ホーム・アローン」。といっても在宅しているのは金髪の可愛い坊やではなく白髪のサイコ爺さん。90分に満たないストーリーは至ってシンプルで、強盗3人がいかに音を立てずに爺さん宅から逃げ出せるかというもの。

ホラー映画って①登場人物の絶叫、②敵に遭遇したら即残忍に殺されるというのが基本的な醍醐味だと思うんですよね。その観点からすると本作はそれらを逆手に取った新感覚ホラー。「クワイエット・プレイス」(18)もでしたが、このジャンルが近年の1つのトレンドなのでしょうか。

この映画のヴィランは盲目の退役軍人のお爺ちゃん。全盲ゆえに身についた超人的聴覚を頼りに敵を抹殺するので、敵側としては「無音」を強いられるのがとにかく面白い。またお爺ちゃんは敵を視覚的に認識できないので、お爺ちゃんを目の前に遭遇しても即死ということもなく、いかに「無音」のまま彼を回避するかの緊張感はまさに映像作品ならではの技法でこれまた面白い。もうすぐで外に出られそうな所で出られない展開も「あー!」と声が漏れる。

ただその面白さを追求し過ぎたのか、その他の設定がお留守になった印象。爺さん宅で恐怖体験をする3人もそもそもは働かずに強盗で生計を立てようとしている面々なので、いかに苛烈な仕打ちに遭っても何か「自業自得」感が拭えずあんまり可哀想な感じがしない。アレックスだけは何か巻き込まれた感あってギリ不憫だと思ったけどね。

お爺ちゃんもお爺ちゃんで盲目の退役軍人って設定だからあの超人的聴覚や腕っぷしの強さも納得だったけど、展開を追うごとにどんどんキャラに疑問符が。地下室のシーンに関してはなぜそんなぶっ飛んだ考えに至るのか理解が追い付かず、ただただ鬼畜なサイコパスに成り下がった印象。スポイトのシーンは単純に不快だし、この時点で当初は純粋な被害者だった爺さんにも肩入れ度合いが薄くなっていった。

...からのあのラストシーンも謎ですよね。お爺ちゃんなりの「口止め」なのか、まだ何かが起こるのか色々解釈できそうだけどちょっとモヤモヤ。

とはいえ、本作を監督したフェデ・アルバレスの卓越した暗い映像技法は好きでした。先日観賞した「蜘蛛の巣を払う女」(19)でもメガホンを執りましたし、ここ最近注目の映像作家さんですね。
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