こたつむり

クリーピー 偽りの隣人のこたつむりのレビュー・感想・評価

クリーピー 偽りの隣人(2016年製作の映画)
4.0
★ その叫びは希望の轍(わだち)か
  それとも絶望の軛(くびき)か

これは断絶の物語でした。
違和感を積み重ねて、映画も観客も世界も孤立させる…そんな“悪意”に満ちた作品なのです。

だから、巷の評判が芳しくないのも当然の話。
何しろ、登場人物全てが“イカレて”いますからね。共感はおろか、行動原理に首を捻ることが多いので、自分の尺度だけでは判断できないのです。

例えば、西島秀俊さん演じる主人公。
犯罪心理学を専攻する大学教授なのですが、笑顔で猟奇事件を語るのです。どこかズレているのは間違いなく、彼に感情を添わせるのは危険です。

また、笹野高史さん演じる刑事も同様。
警察としての立場で正論を語りながらも「調書なんて適当に作る」と言います。本心は何処に在るのか…最後の最後まで分かりませんでした。

そして、竹内結子さん演じる主人公の妻。
とても家庭的であり、近隣付き合いを疎かにせず、笑顔が絶えない柔和な女性…のように見えて、心の中に大きな闇を抱えています。それは物語序盤の「あなたがベルを押して」の一言に顕著でした。

これが黒沢清監督の筆致なのですね。
監督の作品を鑑賞するのは本作で三本目ですが、ようやく分かった気がします。あくまでも私見ですが、監督さんは“人を信用していない”のでしょう。だから、容易に共感する描写を排除し、物語自体を“異空間”に持っていくのです。

いやぁ。考えれば考えるほど闇深いですな。
普通の戸建て住宅の先に“異空間”が拡がっていましたが、これも監督の意図したところ。「こんなの現実的ではない」と思った時点で罠にハマっているのです。

まあ、そんなわけで。
凡百なサスペンスとは一線を画く作品。
近隣と断絶した家庭を描いた物語…というのは表層だけであり、その奥にはドロリとした闇が拡がっていました。思うに、安全で快適に過ごせる居場所を持つ人ほど、物語に拒否反応を示すと思いますので、鑑賞する際は“常識”を捨てることをオススメします。
こたつむり

こたつむり