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ザ・ギフトのKのネタバレレビュー・内容・結末

ザ・ギフト(2015年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

ナメてた。完全にナメてた。よくあるサイコホラー物だとばかり思っていましたが、かなり深く考えさせられる映画でした。

郊外に引っ越し、新生活をスタートさせた夫婦サイモンとロビン。そんな中サイモンの高校時代の同級生だというゴードと出会う。ゴードは旧友との再会を喜び、2人にワインや日常品などのギフトを贈る。その後もゴードからの贈り物が次々と届くようになり、次第に彼の行動に不信感を募らせていく。

本作のあらすじはザックりとこんな感じです。以下ネタバレありのレビューです。

映画の前半まではゴードがサイモンロビン一家を標的に加害者(ゴード):被害者(サイモンロビン)の構図で展開されていくのだとばかり思っていました。

しかし実際はこの構図とは違い、かつては加害者(サイモン):被害者(ゴード)の関係性でした。

高校時代サイモンに「ゴードがゲイで性的虐待を受けた」という事実無根の噂をでっちあげられゴードはいじめにあい、高校を辞めてしまいます。

またその噂が原因でゴードは実の父親から殺されかけ、父親は殺人未遂の罪で投獄されてしまいます。

サイモンの嘘により、ゴードの人生は壊されるのです。

そんな経緯があり、人生の仇と再会したゴードですが特に恨んでいる様子もなく寧ろ交友を深めようとさえしています。それも不自然なほどに。

その「不自然さ」は観客側からすれば、彼の不気味さを助長させるものであり、この映画もそれを意図した描き方をしています。

ミスリードを誘うという効果もあったと思うのですが、ゴードは単に人との付き合い方や場の空気を読むことが苦手な人なんですよね。

あくまで、ゴードはサイモンを赦そうと努力し、和解しようと彼なりの方法を行使していただけのように思えます。

以下サイモン夫婦とゴードの食事シーンでの彼の台詞です。

「悪いことがあってこそ、良いことに気づくこともある。正しい心を保ってさえいれば悪い出来事も贈り物になる。俺はそういう風に考えることにしている」

はい、もうこれ明らかにサイモンからの謝罪待ちなんですよね。たびたびギフトを贈ったり、家に尋ねたりするのも、サイモンが自身の罪に向き合い謝罪してくれることを期待していたからです。

しかしこのサイモンという男、とことんクズなんですよね。

過去の罪と向き合うどころか、会社のライバルの人間の嘘情報をリークし貶めてそのポジションにつきます。(まぁ結局これもバレて会社をクビになるんですけどね)

挙げ句の果てゴードに対しても謝罪するのですが、その遅すぎる謝罪故にゴードは受け入れようとせず「手遅れだよ」と拒否され、逆上し彼に殴る蹴るの暴行を加えます。

さて、ここまでサイモンのクズっぷりを余すとこなく見せつけられるのですが、終盤で一気にゴードが仕掛けてきます。

サイモンの妻であるロビンが妊娠し、終盤で出産するのですが、実は子どもがサイモンの子でなく、ゴードの子なのではないかと思わせるシーンがあります。

ゴードがサイモン宛にビデオメッセージを送りその内容が、「ゴードが寝ているロビンをレイプしてできた子どもかもしれない」と思わせるものなのですが、実際はそれが本当かどうか微妙な示し方なんですよね。

これは私の解釈ですがゴードはレイプなどしておらず、産まれたのはサイモンの子です。

それを裏付ける2つの理由があります。

まず第一にそもそもゴードが人生を狂わされたのはサイモンによる"事実無根"の嘘が原因です。

ゴードが復讐するとなれば、これと同じく"事実無根"の嘘をでっち上げることであるのが自然です。

つまり「ゴードがロビンをレイプしてできた子どもである」ということです。

第二にゴードはサイモン以外を自身の復讐には巻き込むような人間ではないからです。

あくまで標的はサイモンであり、自分に親切に接してくれたロビンには感謝の言葉を述べ、出産後の彼女にも祝福している様子が見られます。

また「子どもがサイモンの子でないかもしれない」という疑念はサイモンにのみ植えつけられ、この事実をロビンは知らずにいます。

かと言って職を失い、仕事での不逞や過去のいじめのことをロビンに知られ、夫婦の関係も微妙な状況で「子どもはゴードのレイプによって産まれた子かもしれない」なんて言えるわけもありません。

産まれたばかりの子どもは皆猿顔で、自分の子であるかどうかをビジュアルだけで判断するにはかなりの年月がかかるはずです。

つまりその間サイモンは「自分の子でないかもしれない」という疑念に苛まれ続けるのです。

物理的に攻撃するのではなく、精神的にじわじわと苦しめ続ける。まぁこれも全てサイモンの自業自得なのかもしれません。

何度も贖罪の機会があったのに、それを全て無下にし、なにも変わろうとしなかったサイモン。

子ども時代に形成された人格はなかなか変えられないと言いますが、サイモンのように人間は本質的に変わることなどできないのかもしれません。

人を思いやり、相手の立場になって考える。当たり前のことですが、そんなことを改めて考えさせてくれる良い映画でした。
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