K

アスのKのネタバレレビュー・内容・結末

アス(2019年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

前作の「ゲットアウト」に引き続き、今作も現代に渦巻く社会問題を上手く表現してくれた。

ジョーダン・ピールは説教臭い風刺映画でなく、ジャンル映画に昇華させることによって、強いメッセージを伝えるだけでなく、皮肉めいたセンスで暗い雰囲気の中にクスッとさせる笑いも含ませる。

なんとく察しがつくであろうが、タイトルの「Us」は単純に"私達"と"United States"のダブルミーニングであろう。

つまり今作はアメリカ社会そのものを映し出した作品であることが分かる。

地下に暮らすクローン人間は社会的マイノリティとして描かれているが、彼らもマジョリティの人間と同じように"歯"があり"髪"があり"血"が流れている。

しかし生まれた環境が少し異なるだけで、真逆の生活を強いられることとなる。

表があれば裏がある。今作では表裏の"重なり"を象徴するものが度々登場する。

"鏡の迷路"、"双子"、"刃が重なり合うハサミ"。

彼らも"私達"と同じ存在なのだ。それなのにいつからか我々は恵まれた環境を当たり前のように享受し、"裏"で生きる者たちがいることを忘れてしまう。考えなくなる。知ろうとしなくなる。

映画冒頭で語られる"大半の人間が地下の存在を知らない"という文言が全てを物語っている。

物語の終盤で主人公が実はクローン人間であり、元々はマイノリティの人間であったことが分かる。

不穏に笑みを浮かべ物語は幕を閉じる。

私はあえて"不穏"というネガティブな表現を用いたが、最後の笑みを"不穏"と読み取るか否かは受け手側によって変わってくる。

これまでなんの不自由もなく生きてきたマジョリティ側の人間は恐らく私と同じ感覚を持つであろう。

しかしこれをマイノリティ側の人間が見ればそれは"不穏"ではなく全く逆のポジティブな言葉で表現するかもしれない。

主人公が実はクローン人間だというオチはマイノリティの人間にも意思があり、反旗を翻す力を持つということである。

つまり受け手の立場によって、ラストの解釈は大きく異なるのである。

近年「ジョーカー」や「パラサイト 」といった格差をテーマとした映画が増えてきているが、映画は単に人を楽しませるだけでなく、時代ごとの社会情勢と深く関わりのある文化であることが再認識されてきた。

そういった観点では本作も高く評価できるものである。
K

K