山本Q

バービーの山本Qのネタバレレビュー・内容・結末

バービー(2023年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

グレタ・ガーウイングがバービーを撮ると企画が発表された時から楽しみでしょうがなかった。何をやってくるのか全く予想もできず期待だけが募ってた。
ライアンゴズリングがキャスティングされた時のニュースやキャスト二人のビジュアルが出た時もいちいち面白かった。
アメリカでは結構人が入ってるニュースも流れてるので、とにかく劇場へ。


言葉にできなかった女らしさや男らしさのあり方の違和感みたいなものを、ここまで明確にビジュアライズされたことへの爽快感がスゴイ。しかも、面白く楽しくキュートに作られていて、批判的な要素もあるが全く角が立っていない。男性はどう見るかわからないけど、これを見て馬鹿にされたと受け取る男性はそもそもこの作品を見ない気がする。また男性も社会からのジェンダーロールの強制に苦しんでいるという扱いがあるからかな。

自分をバービー役として売り込むマーゴットロビーの強かさには本当に頭が下がる。ついにこういう人が出てきた。しかも、グレタ・ガーウィングを巻き込み、高興行収益を記録するなどえげつなさを感じるほどのやり手感。ハーレークインを足がかりに、瞬く間にハリウッドハッキングをしてしまったみたい。すごい。

ケンのキャストたちが最近のコメディ系作品で光る役者がチラチラいて嬉しい。スコットピルグリムことマイケル・セラの顔も久しぶりに見れてよかった。
女優陣で嬉しかったのは、ゴーストバスターズのホルツマン役が忘れられないケイト・マッキノンさん。10年前だったら、ヘレナボナムカーターがやってた役だなーとぼんやり思ってた。
バービーのキャストは知らない人が多かった。グレタ組の人もいたのかな?
キャスト的には、全体的にコメディ布陣。これで毒っぽいものを薄める作戦だったろうか。

映画としては、入れ子になった虚実構造が面白かった。夢のバービーランドと現実の世界とそれらを内包し俯瞰した映画世界。冒頭に「2001年宇宙の旅」のパロディを置くあたり、その辺はかなり意識的だったんじゃないだろうか。「女性の権利」のようなホットでデリケートなものを題材にする時の予防線のような仕組みかもしれない。
マテル社のある現実世界とバービーランドのリアリティレベルがあんまり変わらず混乱したけど、バービーランドとケンダムが大きな対立構造だから、マテル社のある現実世界はどっちかというとバービーランドの延長線上だったのかな?産婦人科が一番現実に近いリアリティレベルだろうか。
マトリックスは、世界内世界という素材だけで面白かったけどマルチバースまできた今となっては、複雑なはずのメタ構造や作品内作品が作る方も見る方も特に気にしてなさそうで、こういう服ションがあまり説明もいらず一般的になったのは感慨深い。


今作は、輝く女性を応援すると言うような単純な内容じゃないと思うけど、「誰もが自分自身でOK」というメッセージは雑すぎる気がする。
嫌味な受け取りかたをすると、「フェミニズムとか、男の悲しさみたいな価値観に囚われているお猿さんに教えてあげよう。マーゴット・ロビーのように厚かましく生きなさい。それが、幸せな人生の掴みかたです」と言われている印象。そこまでは言い過ぎだけど、女らしさ・母親らしさを押し付けるのはだめ、男らしさはも辛いでしょう。と全方位を敵に回して、「自分らしくありなさい」と言って責任は取らない。というような気がしてしまう。風刺として問題提起したかったのか、レッテル貼りに翻弄される愚かしさを、明らかにしたかったのか。
お話的なオチである、「あなたはあなたであるだけで良い」という結論も、実質的には「女は女らしくあれ」という言説とあまり変わりはないので、そのさきの世界が見たかった気がする。というか、グレタ・ガーウィングは今までその先にある「その人の在り方」をちゃんと映画に落とし込んできた人だと思っているので、テーマが戻っちゃった感じがして、物足りないのかもしれない。もちろん、今作は別なテーマや課題に取り組んでいるから、というのは十分に考えられるし、ガーウィング作品としてはとても新味のある作品なのは間違いない。
グレタ・ガーウィグ作品も今回は脚本だがグレタ・ガーウィグと信頼のアツいノア・バームバック監督作も追いかけ切れていないので、見てみないとわからないかもしれない。結論は持ち越し。

とにかく今作はデリケートな素材で気を使う相手が多すぎる中、誰でも楽しめ見た後に嬉しくなる作品を物にしたマーゴット・ロビーの才覚が光輝いている。マーゴット・ロビーすごい、眩しい、ピンク!
山本Q

山本Q