マクマーフィ

バービーのマクマーフィのレビュー・感想・評価

バービー(2023年製作の映画)
3.5
結構楽しめた。

おバカで可愛いバービードールが、男が支配する現代社会を体験して成長するミュージカルコメディ。ギャグの要素も強めだ。いちばん笑えたのは、ケンが現代社会でToxic masculinity =有害な男らしさの魅力に目覚めていく一連のシーンだった。

で、この「Barbie」の根っこにあるモチーフは、ヒラリー・クリントンじゃないかと疑っている。本作は、“女性が社会を変える”というヒラリー的な政治アプローチを全面的に支持しているわけではない。逆に、ヒラリーのイメージ=「教育水準の高い女性層の熱烈な支持を得ながら、一般大衆が心に中では嫌っているエスタブリッシュ女性像」を皮肉っているだと思う。バービーランドはヒラリーの脳内メーカーを再現したかのようだし、バービーとケンが訪れる現代社会(家父長制度が息づくメンズワールド)で、アイコンとして登場するのが、ヒラリーの夫、ビル・クリントンである。

そして、2001年の大ヒット作「キューティ・ブロンド(Legally Blonde)」が、「Barbie」のプロットの下敷きになっているのだろう。リース・ウィザースプーン主演、おバカで可愛い主人公、女子大生のエル・ウッズは、ベルエア(LAビバリーヒルズの西側エリア、超高級住宅街)のお嬢様。人生は前向きでハッピー!ピンクのファッションに身を包んで常に口角があがっている彼女は、絵にかいたようなバービー・ガール。お約束で、そのお嬢様っぷりを戯画化して笑えるシーンもふんだんにある(当然「Barbie」でもその笑いの要素は強い)。

そんなエルがハーバードのロースクールという保守的な男性社会で弁護士を目指すプロットは、ハリウッドが近年描き続けてきた「ガラスの天井を突き破ることに挑む“意外性をもった”女性像」でもある。「エリンブロコビッチ」(2000年)は、貧しいシングルマザーが環境汚染をめぐり、巨大企業と裁判で勝訴する話だった。

一方、「Barbie」では、ガラスの天井を破りはしない。ヒラリーの理想ではなく、女性だって平等に生きる権利はある、それぐらいのメッセージ。この軽さが現代的なのかもしれない。表面的に、“頑張る金髪の美人”が自由に生きる権利を勝ち取る。これが「Barbie」の世界線なのだ。

本作が米国で予想外の大ヒットとなったのは、コロナやBLMで疲弊し、社会的な地位が危ぶまれる米国の白人女性層をエンパワーメントしていることが大きな要因だろう。同じ現象は、テイラー・スウィフトの全米ツアー「THE ERAS TOUR」の熱狂ぶりにも見てとれる。どちらも、カントリーやウエスタンという一見、失われつつある米国白人文化がキーワードにもなっている。