Nasagi

裁きのNasagiのネタバレレビュー・内容・結末

裁き(2014年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

人権<<<夏休みという皮肉
一風変わったインドの法廷映画で、個人的に好きなスタイルの作品だった。
反体制的な歌をコンサートで披露していた老人が警察に目をつけられ、逮捕されたことで話ははじまる。その罪状もなんかいちゃもんじみていて、彼の歌を聴いたスラムの若者が遺体で見つかったから「自殺ほう助」罪だとかいう。映画がすすんでいく過程では公権力による統制と言論の自由、格差、言語問題、ナショナリズムなどさまざまな問題がほのめかされる。
全体的に淡々とした雰囲気でカメラはほぼ固定されていて、引き気味の画がすこし突き放したような印象を受ける。ハリウッド映画みたいに重要な描写をクローズアップで見せるなどの親切心がない分、2周目を見た時に登場人物のしぐさなど細かい描写に発見があっておもしろかった。

この映画のうまいところは、裁判にかかわる弁護士、検事、証人、判事とその家族を映すことだけで、インド社会のさまざまな階層(カースト)を浮かび上がらせている点にある。途中で視点人物が切り替わるタイミングが絶妙で、単純に「格差」のひとことで言い表せないような、それぞれの家庭の文化、暮らし向き、会話のちがいを見せられる。
また、裕福な家庭や、中流家庭の様子は描かれるのだが、底辺であるスラムに住む家族の暮らしはその入口までしか描かれず、セリフの中でしか説明されない。これは社会の中でかれらの存在が不可視化されていることの暗示なのだろうが、それと同時に「むしろ言葉によって想像させることで余計ゾッとする」みたいな感覚もあった。

全体的にとても楽しめたのだけど、弁護士の人の内面や最後のシークエンスなどはもう少し掘り下げられた気がするというか、なんとなくだが非商業的な作品だから、長尺になりすぎないように編集の段階でかなり削らされたんじゃないかと推察する。
いずれにしろ監督はこれ撮った時まだ20代半ばとかなので、これからがかなり楽しみ。
Nasagi

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