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ノー・マンズ・ランドのstanleyk2001のレビュー・感想・評価

ノー・マンズ・ランド(1985年製作の映画)
4.3
『ノー・マンズ・ランド』(ボスニア語: Ničija zemlja、英語: No Man’s Land)2001
ボスニア・ヘルツェゴビナ
スロヴェニア・イタリア・フランス・イギリス・ベルギー

戦争の愚かさ虚しさを具体的な物語に落とし込んだ戦争コメディの傑作。

カンヌ映画祭脚本賞
アカデミー賞外国語映画賞
ゴールデングローブ外国語映画賞
などたくさんの賞を授賞している。

東ヨーロッパ、イタリアとアドリア海を挟んだユーゴスラビアは複数の民族がモザイクのように入り組んで住む土地。

第二次世界大戦後、チトー大統領の下ユーゴスラビア社会主義連邦共和国が発足。「七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字、一つの国家」と言われる複雑な国。

ソビエト連邦の崩壊、東欧の民主化が始まりユーゴスラビアでも共産党一党独裁が廃止された。

ユーゴスラビア連邦は崩壊して各共和国が独立を目指した。スロベニア、マケドニア、クロアチアが独立した。

ボスニア・ヘルツェゴビナも独立したが国内に住むセルビア人がボスニアからの独立を目指した。

この映画の舞台はボスニア対セルビアの紛争。1992年から3年続いた紛争で死者20万人、難民200万人、女性に対するレイプと強制出産(民族浄化)が行われた。(Wikipedia)

どっちが悪いとか、どっちが先に手を出したとかもう問題にならない最悪の憎悪のぶつかり合い。

ボスニア軍とセルビア軍の戦いは膠着していた。両軍の間に立ち入り禁止の無人地帯(ノー・マンズ・ランド)が設けられた。

霧のため迷ったボスニア軍兵士たちが無人地帯を越えてセルビア軍側に近づいてしまいセルビア軍の反撃を受ける。

セルビア軍の砲撃で吹き飛ばされたチキ(ブランコ・ジュリッチ)。同僚のツェラは倒れて動かない。

そこにセルビア軍の兵士が二人偵察に来る。古参兵と新兵の二人組。物陰に隠れるチキ。

セルビア軍古参兵「これはジャンプ式地雷だ。穴を掘ってこの地雷を埋める。地雷の上にその死体(ツェラ)を乗せてワイヤーを引く。奴らがこの死体を動かすと信管が作動して2000発の金属の球が四方に飛んで40メートル以内の人間を殺す」

物陰に隠れていたチキが現れボスニア兵士たちを機銃掃射で薙ぎ倒す。古参兵は即死。新兵ニノ(レネ・ビトラヤツ)は負傷したが生きている。

チキがニノにトドメを刺そうとした時、死んだと思われていたツェラがうめく。気絶していただけだったのだ。

ニノはチキに言う「そいつの体の下には地雷が埋めてあって動くと俺たち全員が死ぬぞ」

無人地帯の塹壕。負傷した敵と味方。体の下には地雷を埋められた兵士。身動きが取れない三すくみの状態。

笑うに笑えない極限状況。この状況がボスニア、セルビア両軍からUNPROFOR(国連保護軍)に伝えられる。

国連のマルシャン軍曹(ジョルジュ・シアティデス)はなんとか地雷を撤去しようとする。しかし事なかれ主義の上司は何もしないで現場を離れろと言うばかり。

そこにテレビ局のジャーナリスト・ジェーン(カトリン・カートリッジ)か現れる。「無線を傍受した。地雷を仕掛けられた兵士を国連保護軍は放置するの?」

無人地帯に残された三人の運命は、、、

さもありなんという感じの国連軍の無責任さ。特ダネを独占したいのが本音のジャーナリストの貪欲さ。(でも危険を犯して前線で取材する彼らのおかげで我々は戦争の状況を知ることができる)

そして極限状況に置かれたボスニア兵士とセルビア兵士はたいていの映画ならお互いを理解するようになるのだが、この映画ではさらにその先が描かれていて慄然とする。

この映画で描かれる相互不信と憎悪はいまイスラエルのガザ地区にも起きている。全く絵空事では無い。笑いが凍りつくコメディだ。
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