ハートブレイカー

デスノート Light up the NEW worldのハートブレイカーのネタバレレビュー・内容・結末

1.1

このレビューはネタバレを含みます

10年前の第1作は、微妙な部分も多かったが概ね良しと思える映画だった。
月の一人称(原作では基本的に僕で統一)が「俺」や「僕」とグチャグチャだったり、CGのリュークを見る月の目線が合っていなかったりなどのツッコミ所がある。
脚本は原作と比べるとほぼ全てが劣るが、レイ・ペンバー(映画ではレイ・イワマツ)が月の指示でFBIのファイルを入手する方法は原作よりも良くできており、後のTVアニメ版でも採用されているという功績も残している。

2作目『The Last Name』は、原作の要素を上手く抽出・再構成し、原作のラストよりもよく出来ていると言う人が多いことからも、とても良く出来た映画だった。
しかし、劇場で初見の時、序盤で無能の松田が「僕は射撃の腕は良いんですよ!」とおちゃらけるシーンがあるせいで、オチは原作同様月が追い詰められて隠し持ったノートを使おうとし、松田が撃つシーンになるとわかってしまったのが残念この上なかった。
また、当時のTVCMで薄暗い部屋でLが「私の最後の失敗です」というカットが映っていた為、原作と同じ方法でレムが名前を書いて殺した(かに見えた)段階でそのシーンが出ていなかった事により、Lは何らかの方法で死んでおらず、最後に月を追い詰める時に登場するとわかってしまった。

3作目、『L Change the World』はFBI捜査官として南原清隆が登場し、終始ダダ滑りするウンコ映画なので今回は触れません。


さて、それから10年後、新たに6冊のデスノートが地上に舞い降りるという今作。
まずはhuluにて独占配信されたショートムービー『デスノート NEW GENERATION』3作について記述。

【三島篇・新生】
警察庁のキラ対策室改めデスノート対策本部の有能捜査官にして、夜神総一郎の意志を継ぐ三島の物語。
この短編では、デスノートのルール上絶対に不可能な事をやっていてゲッソリする。
「本人がやってもおかしくない範囲」でしか操れないのに、犯罪者に「私はキラ。デスノートは復活した。」と言わせている。直後「デスノートは機密情報だ!知っているはずがない」と警察官が言っていることからも、【不可能な状況を書き込んだ場合は適用されずに心臓麻痺となる】のルールが適用されるはずである。
※月が犯罪者を使って検証し、「Lが日本捜査本部を疑っている事を知っている」と遺書に書かせようとしても「当人がそんな事は知らないから」不可能で心臓麻痺で死亡した。その為、文面だけを見れば普通の文章に見えて、文頭の文字をつなげると「えるしっているか死神はりんごしかたべない」のメッセージになる遺書を書かせた。


【竜崎篇・遺志】
Lの後継者である通称竜崎の物語。
天才的な推理力でデスノートの所有者を探し出す。
やや都合の良すぎる推理はあるものの、とても面白く、キャラが立っている短編。
竜崎の他にニアとJが登場。
ニアは『L Change the World』に一応出ていたアイツの10年後という設定だろうけど顔は出ない。
メロの存在が示唆されている。


【紫苑篇・狂信】
過去に家族が惨殺され、犯人がキラに裁かれた事によりキラを狂信することになったサイバーテロリスト紫苑がデスノートを手に入れ、殺人犯を初めて裁く物語。
概ね問題ないストーリーではあるが、本名ではなく偽名で死亡という、デスノートのルールを逸脱している箇所がある。
「偽名がその男にとって本当の名前になった」は、個人の精神的な話であり、デスノートの効力の範囲内ではないと思う。
最後にリュークが登場するのが良い。


本作『Light Up the New World』公開前日に金曜ロードショーで放送された総集編『逆襲の天才』は映画2作の総集編に、三島・竜崎・紫苑のナレーションが入るというもの。
「この時夜神月は◯◯したと考えられる」という考察ナレーションが入るが、ポテチの中の小型テレビ等、流石に知り得ないだろうという部分があった。




さて、前置きはここまでで、ここからが本題。

【良い点】
・新登場の死神のデザインがカッコイイ。
ベポは原作の『ダリル=ギロオーザ』に酷似しているがカッコイイ。出番が一瞬で終わるのが残念。
アーマは原作のシドウに似ているが、蛾をデザインに組み込んでクールに仕上がっている。
リュークのリンゴのようにマスカットを食べる点も良い。

・CGのクオリティも格段に進歩していて、モデルもアニメーションもライティングもコンポジットもとても綺麗で良い。

・デスノートは人間界に同時に6冊までという、マイナールールに着眼したという点。
 そして、6冊まとめて封印すれば今後二度とキラ事件が発生しない。という戦いは面白い。

・中盤に明かされる、竜崎がまさかのノートの所有者だったという点。

・似合わないレッド・ホット・チリ・ペッパーズの曲なんか使わず、安室奈美恵の音楽にしたのが良い。

・全体的に音楽がとても良い。



【悪い点】
穴だらけのボロッカスな脚本。
そもそもデスノートの基本ルールすら理解できていない。

登場人物全員バカ。デスノートの醍醐味であるはずの頭脳戦皆無で最後は銃撃戦。
デスノート対策本部の捜査員であば、顔をワンタッチで簡単に隠せるマスク、顔を見られないように一瞬で張れる煙幕、所有者と対峙した時の為に相手の目潰しをする催涙ガスなどの装備を標準で全員が持っていなければおかしいはずなのに、全員がバカみたいに手や布で顔の下半分を隠す。せめてサングラスは必須だろう。

ノートの所有者がポンポン死神の目の取引をする。
如何にして相手の名前を知るか、という頭脳戦が面白さだったが、そういった駆け引きは一切なしですぐに死神の目に頼る。さらに、相手の行動を予測したり、罠を仕掛けてボロを出させるといった駆け引き要素も全く無しで、「全てはパソコンでハッキングすればOK!ハッカーマジすげぇ何でもできっから!」という雑な方法。
どうやって構築したのか全く不明な超絶有能なソフトで、キーボードをカタカタ・・・ッターン!とやるとなんでもできてしまう連中ばかり。
挙げ句の果てに「ハッキングの電波が!!」とかワケのわからない事を言い出す始末。
ハッキングというのはネットでアクセスして、相手のセキュリティを突破する『技術』であり、EMPブラスター的な物でコンピュータを強制シャットダウンさせるのとハッキングは全くの別物ですよ。

狡猾で天才で決してキラの尻尾を出さない月に隠し子がいて「僕がキラだ」と自白する動画を顔を映して撮影していた!! という展開も最低ですね。
絶対に有り得ない。月であれば、原作で魅上と初めて電話した際の「11月26日?5枚?何の事です?」のように、分かる人にだけそれと分かる方法で示すはず。
ちなみにこの月の動画を見る限り、髪型が1作目の時の月です。(前髪が若干上がっていて額を出している)
2作目では前髪を降ろして原作風の髪型になっている。
つまり、東大に通う20歳そこそこの時の隠し子ということになります。

地上に6冊のノートが舞い降りるが、日本に4冊(※)・ロシアに1冊・アメリカに1冊という偏り。
さらに、ロシアとアメリカのノートは紫苑に簡単に所有者が特定され、冒頭の段階で殺されて奪われている。
※竜崎が所有してるノートは、日本に来る前に海外で独自の捜査で入手した、または、そもそも竜崎自身のもとにアーマが持ってきたものの可能性がある為、最初から日本にあったわけではないかも知れない。

夜神月の狂信者で自分こそが後継者だと信じて疑わない紫苑が、入手した月の顔出し自白動画を全世界に公開して正体をバラしたり、終盤で「デスノートを渡さないと街中の人間を殺して血の海にする」というキラの意志とは完全に異なる言動をするなど、人物設定に難がありすぎる。

冒頭の、10年前に月が犯罪者を粛清した出来事に、死神大王が感銘を受け、「キラの正当な後継者を探し当てた者を大王の後継者とする」と言ったなんて発端で既に落胆。
リューク曰く「死神界は腐ってる。みんな寝てるか博打やってるか。下手に人間の名前なんて書いて殺してると『何頑張っちゃってんの?』とバカにされる。あまりにも人間の寿命を奪わなさすぎてたまに寿命で死ぬヤツもいる」だそうだから、無気力な死神たちが躍起になって大王の座の争奪戦をするなんて事は起こり様がない。
人間には観測不可能である概念的存在の死神大王が後継者を探すという設定にも無理がある。
「十分楽しんだ」と言い月を殺して死神界に帰ったリュークが「やっぱりつまんねぇ」と思って時間をかけて6冊集め、同様に娯楽を求める死神と一緒に遊びで今回の事件を起こした・・・という方がまだ説得力がある。

Lの正当なる後継者である竜崎が計3人に顔と名前を知られて3度ノートに名前を書かれている。バカすぎる。
一番最初に書いた新生キラが、23日以内のどこかの未来に時間を設定していた為、その後の2回は適用外となり死なないが、この状態は10年前のLと同様なのもガッカリポイント。
「どういうわけか俺はデスノートでは殺せない」と言った瞬間に、
【ノートに名前を4回間違えて書かれた人間は永久にデスノートでは殺せなくなる】
をどこかのタイミングで実行し、対デスノートで無敵状態になっているのかと期待したが、ただ単に「お前はもう死んでいる」状態なだけだった。

三島・竜崎・紫苑の3人がいる所に戦闘ヘリが機銃を掃射し、竜崎が脚に被弾するが、戦闘ヘリの機銃はただのハンドガンなんかとは全くの別物で、当たったら脚なんかもげてブッ飛んで肉塊になるレベルのモノなんだけどなぁ。「イテテ」程度の傷で済んでるからゲッソリ。
そもそもデスノートを欲した国家が送り込んで来た兵士達なら、回収対象のノートが吹き飛ぶような攻撃するなよ。
さらにこのシーンで、原作では死神シドウがやった、兵士のヘルメットを死神が外すという行為をリュークが行う点があり得ない。リュークは人間に肩入れして助けるような真似は絶対にしない。
ここは多少無理矢理でも新登場の死神ベポにやらせるべきだった。

紫苑が、三島の本名『中上亮』をノートの切れ端に書いた時、最後の一画を書き始めてから手を離していたが、その時点で完全に『中上亮』という文字が成立している(亮の字の最後の一画がやや短いというだけで、字としては完成している)にもかかわらず、なぜか死なない。
「あ、本名は『亮一』か何かなのかな」と思っていたら、『亮』だった時にガッカリした。

終盤、主人公的存在の三島が真の新生キラだったと判明する点は「うん。そんな気はしてたよ。」程度のものだったが、対策本部のメンバーの女がそれを知って、竜崎と三島2人のもとに現れ、三島改め新生キラを復讐心から殺そうとする。
なぜこの女が三島が新生キラだと知ったのかが全く分からない。
そして、三島が女に殺されそうになった所を竜崎の死神アーマがデスノートで助け、アーマが死亡する。
この展開は全く意味が分からない。
女は新生キラへ復讐心を持っていて殺そうとするのは理解できる。竜崎と新生キラは対立関係にある為、新生キラが殺害されても竜崎には一切マイナスはない。女も竜崎には恨みはない為、仮に新生キラを殺害しても竜崎に害を成すことはない。
警官隊には新生キラに対する発砲許可が出ている為、「殺害がバレないように口封じで竜崎を殺す」ということも考えられない。
いくら考えてもこのシーンは全く辻褄が合わない。

6冊揃ったノートを、中立のワイミーズハウスで永久に保管すると決めるという間違った判断。
テロの標的になるに決まってると思ったら案の定移送の途中でテロ発生。4冊が焼失し、2冊が悪の手に。
ここまでで十二分にバカなのだが、さらにバカにバカを重ねる。
折角逮捕した新生キラを超法規的措置で釈放し、Lを継いでノート2を奪還しろという展開。
そもそも新生キラの三島は全く天才的な頭脳を発揮するシーンはないのでLを継ぐなどあり得ない。
ニア・メロ達に任せておけば全く問題ないはず。
この駄作に更に続編なんか作られたらたまったものではない。
(どうせオール海外ロケなどせず、なんやかんや理由を付けて日本で戦うことになるだろう)

6冊のノートを完全に封印するのであれば、『6冊を厳重に酸化等での劣化を防ぐ為真空状態にした箱の中に格納し、何重にもコンクリート等でガチガチに固めて何トンもの重量にし、世界一深いマリアナ海溝に沈める』みたいな方法にすべきで、個人が経営する施設に置くという発想が間違っている。



上の方に書いた、デスノートの基本ルールがわかっていないという点。
デスノートのルールは全て頭に入っている為、上映中はルールから逸脱する度に怒りが湧いた。

●「◯田◯夫 即死」という記述でバタバタ人が死ぬ。
【名前を書いた後、40秒以内に死因を書くとその通りになる。】
【死因を書いてからさらに6分40秒、詳しい死の状況を書く時間が与えられる。】
このルールは基礎中の基礎であるが、この映画では死因に『即死』と書く事で瞬時に死亡する。これはおかしい。
『即死』は死因ではなく『状況』であるので、“何が原因で”即死するのか不明となる。
死因を書いていないこの場合は40秒後に心臓麻痺が適用される為、即死は絶対にしない。
例えば『心臓麻痺にて即死』『交通事故により即死』のように、死因が分かる形で書かないと無意味。


●死神の目の効力。
【死神の目は、対象の顔が左右であれば半分以上、上下であれば上から鼻が見えるくらいまでの範囲が見えれば名前が見える】(※コミックス13巻の設定資料集より)
しかし、手や布で顔を隠した捜査員達はわりと鼻まで見えていて、口だけを隠してる状態に何度もなっている為、見られたら名前を知られてしまう。


●月が映った動画を見た松田にのみ、リュークの姿が見える。
そもそも過去に録画した映像----カメラのレンズを通った光の情報を記録する装置で、光がどうのこうのという次元ではない死神が撮影可能という点が納得し難いがそれは百歩譲って良いとする。
過去作で地上に存在したノートは4冊。
・リューク自身のノート(最後に月の名前を書く)
・月が拾ったノート(リュークが人間界に持ち込んだ)
・レム自身のノート
・ジェラスのノート(死んだジェラスのノートをレムが広い、海砂に渡した)
この4冊のうち、レムのノートはレムが死ぬ直前に「月には渡さない」といい燃やしている。
リュークのノートはそのままリュークが持ち帰った。
残り2冊、つまり、月と海砂のノートは事件解決後にLが押収し、2冊とも『焼却処分』している。(L自身がそう言っている)
デスノートのルール上、松田が触ったノートが焼失した瞬間に、松田はリュークを視認不可能になる。(所有者ではなかった為、記憶は消えない)


●新生キラである三島は、物語前半の段階ではリュークが憑いたノートを所有しており、死神の目で竜崎の本名『新井昌幸』を見てノートに書き込んでいた事が終盤判明する。
ノートを自宅に保管していたとしても、所有者の近くには常に死神が憑いている為、序盤の三島の横にはリュークが憑いていた事になり、上記の松田はリュークを視認できるという設定から、毎日三島と顔を合わせているにもかかわらずリュークの存在に気付かないという破綻。
そもそも、竜崎の名前を書いた後に策を練って三島が紫苑にノートを渡す様リュークに頼んだと言っていた為、冒頭の段階もっと言うとhuluの短編の段階で紫苑がノートを手にしているということは三島は所有権を失っているという事になる。
その後に出会った竜崎の名前を書くことは不可能になる。さらに、ノートは【最大で23日後までしか操れない】というルールから、対策本部で竜崎と出会って顔を見て名前を知って書き込んでから最大で23日以内に物語が完結しなければいけない。1年以上前にキラが再発してずっと捜査していた点など、大きな物語上の破綻がある。huluの短編では、紫苑がキラとして粛清を始めた事からキラの報道がされている為、三島がギリギリまでキラとしての粛清をしていたとは考え難い。
致命的に物語が破綻している。


●海砂がノートに触れ、記憶を取り戻す。
【一度所有したノートに触れた場合記憶を取り戻す】
これも上記の松田の件と同様、過去に海砂が所有していたノートはLが燃やしてしまった為、今作で触れたノートは同一のものではないので記憶は戻らない。


●竜崎のノートの所有権と記憶。
ノートの所有者である竜崎が、自宅内だけで所有権をもち、外出する度に所有権を放棄する(万が一顔を見られた場合に所有者だとバレないようにする為)という点は面白いが、帰宅して必ず押すであろう電気のスイッチにノートに切れ端を貼り付け触れる事で記憶を取り戻し、死神アーマに「ただいま」と言う点はおかしい。
【所有権を失ったノートの切れ端に触れても記憶は戻らないが、憑く死神は観測できる】
【ノート本体に触れなければ記憶は戻らない】
というルールの為、竜崎は帰宅してスイッチを押した瞬間にアーマの姿が見えるようにはなるが、記憶はなく「なんでここに死神がいるんだ!!」と驚くこととなるはず。
帰ったら必ず触れるどこかにノート本体を置いて置かない限り、この方法は実行できない。
そもそも所有者と言えども使う気がない竜崎は、所有権を完全に放棄した状態で切れ端に触れ、アーマを認識できる状態を保っていれば何の問題もないはず。


●死神アーマの死。
死神を殺す方法は【好意を寄せた人間の命を助ける為にデスノートを使う】というもの。
“好意を寄せた相手”というのが重要で、それ以外の場合は死なない。
アーマは竜崎に好意を寄せている為、新生キラである三島を助けたアーマが死ぬことはないはず。



と言った具合に、とにかく酷いのなんの。(他にも文句を思い出したら追記します)
2作目がとても良い出来の映画だったのに、見事にゴミを作って良い思い出をブチ壊してくれた本作。
見る価値はありません。
でもCGのメイキングはちょっと気になるのでBDは買いますよ。



あ、ちなみに、「弥海砂が2回死神の目の取引をしているのになぜ寿命で死なないのか!」という疑問を目にすることが多いですが、
【好意を寄せた死神が命を助ける為にノートを使って死んだ場合、その死神の残りの寿命が、人間の寿命に見合った年数に換算されて譲渡される】
という設定がある為、最初ストーカーに刺殺される予定だった海砂の寿命はジェラスの寿命分が加算されて本来の人間の寿命程度に延び、そこから死神の目の取引を2回行って1/4になった後、今度はレムが海砂の命を助けて死んだ為、レムの寿命が加算され、また普通の人間の寿命程度に延びているという事です。