Ricola

定職/就職のRicolaのレビュー・感想・評価

定職/就職(1961年製作の映画)
4.5
久しぶりにツボにハマった作品に出会えた。

もちろん計算はされていると思うが、人物や背景といった画面の中のものが、あたかも自然でそのまま存在しているかのように感じられる、心地よい作品だった。


タイトルの通り、少年が就職するという物語、ただそれだけなのかもしれないが、ポストネオレアリズモ的なものを随所に感じられる。
素人俳優の起用はもちろんだが、例えばロケーション撮影。
戦後の経済復興が進んでいる街の中心部と、まだ戦後の荒れた土地が見られる郊外の差は歴然である。
もちろん自然光を活かした撮影がなされており、眩しすぎる太陽光もそのまま映る。

就職試験の様子が面白い。
試験会場に入って他の人の様子をチラチラ確認する主人公の少年のドミニコ。

そして、試験の間の昼休みのちょっとした冒険がまた楽しい。
カフェの雑多とした都会の下町らしさの中で、何とか昼食をとろうとする、おどおどしたドミニコがかわいい。

そして彼は、試験会場で見かけたアントニエッタという少女と、コーヒーを一緒に飲んだり、街を闊歩して話をする。
二人とも初々しくて街に慣れていない感じが、言動から伝わってくる。
そこでほのかな恋心も芽生える。
コーヒーに砂糖をティースプーンで入れるとき、アントニエッタがドミニコの分までかき混ぜてくれるときの、ドミニコのどぎまぎした表情と、彼女のちょっと緊張した感じがたまらなく愛おしい。

また二人で車が行き交う通りを渡るときのシーンも胸キュンである。
先にドミニコがスイスイ車を避けて通ったけれど、彼女が来れてないと気づくと、わざわざ戻って彼女の手を引いてそのまま会社の試験会場へ戻るのだ…。
青春という言葉がぴったりな、二人のもどかしい距離感にうずうずする。

そして、会社のビルの階段の映し方も印象的である。
4階の試験会場へ向かうために階段を登ったりかけ降りたりするドミニコを上から、また下から映す。
幾何学的な雰囲気を纏う階段の美しさを余すことなく見せてくれる。
少年が全力で登る様子を、ちゃんと時間をとって見せるのも、彼の若さと真っ直ぐさを表しているようだ。

また、構図の美しさと的確さも魅力である。
特にドミニコが呼び出されたときの場面が素晴らしい。
大きな机の近くにちょこんと座っている彼と、大人の大きさが、間にある机を仲介することによって、彼らのパワーバランスを示しつつ、人物と小物の配置のバランスが良く、見ていて美しいと感じられるのだ。

この映画は、恋愛と就職という、2つの達成したい目標のために奮闘し、それらを成功させることに重きを置いた、いわゆるロマコメタイプの作品ではない。
物事が必ずしも因果関係によって起こるわけでないのがミソである。
なぜならそれこそが現実そのものであるからだ。

少年が歩くこと、家族に起こされること、少女に淡い恋心を抱くこと、試験を受けること、ダンスを踊ること…。
それらは全て彼の人生の大切な出来事なのだ。これらに優劣などない。

そして、彼のこれから続いていくであろう人生も、そういった出来事の連なりで構成されるはずである。

最後の彼の目元のクロースアップと鳴り響く音に、それまでとは少なからず違った日常が訪れることを予感させる。

生き生きとみずみずしい人物たち、芸術性を感じる構図や、当時の経済状況までがわかる背景、現実と優しさとユーモアのいい具合の混在など、いろいろな要素がありつつもミニマムな見かけで成立している、素晴らしい作品だった。