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帰ってきたヒトラーのTSのレビュー・感想・評価

帰ってきたヒトラー(2015年製作の映画)
3.9
【前半はコメディ後半はシリアス】
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監督:デヴィット・ヴェント
製作国:ドイツ
ジャンル:コメディ・ドラマ
収録時間:116分
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本日は映画館で二本鑑賞し、普段の組み合わせならこれがオススメになると思いますが、非常に秀逸な『日本で一番悪い奴ら』を先に見てしまいましたので、少し霞んでしまいました。
先週から上映していて、僕の行きつけのところは昨日から上映開始。全国上映日にしなければ行きつけのところでは上映しないのが基本なのですが、何故か今作は緊急上映決定。それほど期待されていたということでしょうか。お陰様で梅田にまで行かなくてよくなりました。

さて今作は、21世紀にタイムスリップしたアドルフ・ヒトラーが芸人と思われて、TVにどんどん進出していくという話です。まずこの設定が非常に興味深い。前半はコメディなのですが、後半は中々シリアスという変わった作品です。
ゲシュタポという単語は出てこないものの、親衛隊やアウトバーン、全権委任法という世界史における基本用語が出てきますので、ヒトラー及びナチ党について最低限知っておられた方が楽しめるかもしれません。
何故タイムスリップしたのかとかそのあたりはどうでも良い。70年の時を経てヒトラーが現代社会にどのような反応をしていくのかというのが前半の見所です。全ての言動に対して時代遅れ且つズレている返答をするヒトラー。しかし、民衆は彼をそっくりさんと思い込み、リストラ寸前の男がこれに目をつけて彼をTVデビューさせます。
程よいコメディ風味の前半が続くのですが、徐々に笑えないシリアスな展開に移行していきます。ヒトラーそのものの性格は勿論変わってないわけでして、TVというメディアを通してプロパガンダをしていきます。いやはや今作を作るにあたり、スタッフ陣はヒトラーについてかなり研究をしていると思いました。
彼のスピーチは一級品です。少なくとも彼には民衆を扇動する能力はありました。これは70年たった現代でも有効。素晴らしいと感じたと共に恐怖を覚えました。フェイスブックという現代のSNSを用いて親衛隊を募集する描写にはたまげました。つまり、彼は現代においても先導者になる能力があるというわけです。
ここに、70年たっても変わっていない民衆の思想が現れています。扇動の仕方が上手ければ民衆は騙されてしまう。それ故に70年前の人々は彼、つまりアドルフ・ヒトラーに投票をしたのです。その結果、アドルフ・ヒトラーという総統が誕生したのです。
これは非常に面白いことです。今作は、実はヒトラーやナチ党のみを批判している国民ですが、彼を選んだのは紛れもなく国民であるため、国民にも責任があっただろうということを示唆しているものと思われます。民主主義の弱点が露呈しているような気もします。選ばれる方だけでなく選ぶ方にも責任があるのです。

ヒトラーはかつてこう言ったそうです。
「なにも考えない国民ほど使いやすいものはない」と。
このなにも考えないというのは、彼の表面的なスピーチだけを見て投票する国民の事を指すでしょう。これは現代日本の我々にも当てはまることです。7月10日に参院選がありますが、少し慎重に投票しなくてはと思わされましたね。

とかく、ドイツ人がヒトラーを題材にこのような映画を持ち込んでくるというのは、自虐映画に他ならないのですが、ブラックユーモアとして楽しめたら良いかと思います。僕はヒトラーを肯定するつもりはありませんが、やはり天才であったということは認めます。IQは200程あったらしいです。あれほど巧みなスピーチ、戦略を立てれるのは天才だからなのです。
悪はいけない存在ですが、歴史に名を刻む悪は天才である場合が多いです。正義とは何なのかとも考えさせられてしまいます。

情けながら、ヒトラーに関する映画をこれ以外まだ見たことがありません。先日、ヒトラーのドキュメンタリー映画として『我が闘争』というのを借りてきましたので、見てまた記事にしたいと思います。
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