まりぃくりすてぃ

ハイヒール こだわりが生んだおとぎ話のまりぃくりすてぃのレビュー・感想・評価

3.0
大半の観客が注文していた演技・演出は、「“これぞアンドロイド” で。しかもとびっきりお洒落にね。ASUNAよりもちょっとは美しい人たちが出てくるんでしょ」。
ところが、女優たちと監督が見せてくれたものは、「どんな演技にしたらいいか、やったことないから手さぐりだった。そもそも役者四人とも普通の女性だし、まあ、こんなもんでいかがっすか? 美術にこそ金と労力かけてるから、レディーな映像全体を楽しんでください」。
結果は、う~~ん。
こんなのだったら、アジアが誇る最強アンドロイド係・橋本小雪を主演にしてほしかった!
声がやたら思春期女子っぽい菊地凛子は、「シャネルに着られちゃってる」だけで終わった感じ。がんばったのはわかるし終盤の迫力はよかったけど、ジェンダーレスというよりは時々オバサンだった。喋りばっかりフェミニンで若くて。
無声映画、という選択肢もあったのじゃないか? その場合、バド・パウエル的なジャズで包んで、動きはすべてマルセル・マルソー。ことさら気取らなくったって、マイムによってお洒落度、普通に跳ね上がりそう。
いや、いっそ、パンプスよりも「足袋とか草履とか下駄とか」を作る職人の話にして、谷口蘭と玄理と小島藤子には浴衣を着せて、シャネルでなく京の西陣の呉服屋の協力を仰いだ方が、今回の配役的にはしっくり来たかもしんない。

でも、さすがにプロヴァンス風ガーデンの鳥籠の中の黄パンプスは、ときめかせてくれた神場面! 浴室を海色で照らしての青パンプスちりばめも、なかなか。舞台となった屋敷こそが本当の主役かも。
上下左右に滑らすばかりだったカメラワークは全体として凡庸だと思うし、各女性客の滑稽衣装も嫌いだけど、かるーくやっぱり美術賞ぐらいは与えてあげたい努力作だ。
でも、光の三原色を全部合わせれば「白」なんだけど、そのためには赤・青・緑にしないとダメ。なぜ赤・青・黄の話で監督が「何の変哲もない、染色し忘れの無印良品みたいな白パンプス」をジョーカー扱いしたのか、よくわからなかった。
そもそも、10センチ超級ピンヒールなんて(アゲハ系の子以外は)毎日履くもんじゃないんだから、「私の足にぴったりな靴」よりもむしろ「勝負靴として長持ちする、傷みにくい靴」を欲しがる方が普通だと思うのだけど。

台本は、アニメ部分(バックストーリー)は興味深かったものの、実写部分は(靴の件ふくめて)世界観が狭くて言葉の力にも欠いた。
とはいえ、ラスト五分は私好み。どうせなら、「ギコギコギコギコギコギコギ~コ~、ゴキュン!」の十数秒を、音だけでもいいから入れてほしかった。
はっきり映しても結構。「本物の人」と「超そっくりさん人形」を撮り分けて、凄惨場面だって見せまくっちゃえばいいのだ。青い血や黄色い血。シュールで許せる!
もしも女性客が三人とももっともっと背筋凍らせるほどのクールビューティーで、靴職人が白ヒゲの爺さんで、ついでに身障者の助手なんかがいれば、…………江戸川乱歩の『魔法人形』の世界。
この映画、猟奇物にほかならない。