半月板損傷

ジャニス リトル・ガール・ブルーの半月板損傷のレビュー・感想・評価

4.0
メジャーデビューから天に召されるまでのたった3年ほどの間の記録映像しか残っていないにもかかわらず、彼女ほどその時々で別人みたいに違う顔してる人も珍しい。

少女のように屈託ない顔ではにかんでいる時もあれば、気難しい老婆みたいな顔でインタビューを受けてる時もあるし、陽気なオバチャンみたいな顔でギャハハと豪快にバカ笑いしたかと思えば、ステージではドキッとするほど色っぽい顔をしていたりする。

ジャニスといえば「孤独」というキーワード、これに昔から何となく違和感を感じていた。孤独とは?一体何がどう孤独だったのか?
それから、ポートアーサー時代はいじめられて引きこもって絵ばかり描いてる少女だったかのような言われよう。
それに付随して容姿が云々って話も出るけど、どの写真みても全然そんなブサイクじゃない。

この映画でその辺のボンヤリした印象がかなり変わった。
か弱い孤独ないじめられっ子ではなく、気の置けない仲間もいるが「敵が多い」じゃじゃ馬タイプだったようだ。
ではサンフランシスコに出てきてからひどく孤独な環境になったのか?といえば決してそんなこともなく、むしろ周囲には常に仲間やオトコや取り巻きがいて、皆に愛され大事にされていたらしいことがわかる。
ヤクを始めたキッカケも孤独云々ではなく、「有名人のマネをしてみた」だけだという(エタ・ジェイムスか?)。

じゃあなぜ孤独孤独というキーワードが彼女について回るのかといえば、しいて言えば少しステージ後の“祭りのあと”耐性がなかったということなのかも知れない。

「家族」だったBBHCを脱退すると、以後のバックバンドは、いくら仲が良いとはいえビジネスライクなリレーションシップが前提なのは否めないし、打ち上げが終われば皆家族の元に帰っていく。観客も然り。

本格的に業界入りしてからの賑やか過ぎるオンタイムとそこからふっと離れたときの祭りのあとの静けさとのギャップは堪えたのかもしれない。

「普通の人なら無視できるようなことも、彼女にはできなかった」

ポートアーサー時代の容姿云々の話も含めて、腑に落ちる証言だ。


そこに本人の「(ステージに立つことは)人生最高のご褒美」という言葉と、

「彼女は(ステージでの失敗を恐れて)ショーの前にヘロインをやることは滅多になかったが、終演後はいつもやっていた」

というバンドメンバーの証言が一直線に繋がる。

つまり、そういうことなのだ。

とはいえ、それらもひっくるめてヤクの仕業だった可能性もある。
本人はとにかくドラッグをやめたがっていて何度もヤク抜きを試みていたってのは、正直、孤独云々の逸話よりも悲痛だった。
どちらかというと孤独との闘いというよりはヤク抜きとの闘いだったのではないかとすら思う。

なにせ、友人達のカンパで地元に送還されてヤク抜き静養につとめたり(なんていい友人達!)、休暇中にブラジルで出会った恋人デイヴィッド・ニーハウスに支えられてヤク抜きしたり(なんて頼りになる恋人!)と、孤独どころか人には恵まれまくっていて、その頼れるデイヴィッドに求婚までされていたにも関わらず、彼の2日間のスキー旅行中に再びヘロインに手を出し、彼が旅に出るとコカインの配達人セス・モーガンなるクズと婚約し、結局ヘロインのオーバードーズで命を絶つことに。(このセス・モーガンについては本作では一切触れていない)
70年の初夏にはデイヴィッドにヤク抜き4ヶ月経過という手紙を書いているのだが、どこでどうなったのかその数ヶ月後にはポン引きのクズと同棲し婚約していたという事実に困惑を隠せない。

ポール・ロスチャイルドの「30年後に君のベストアルバムを作らせてくれ」に涙。
半月板損傷

半月板損傷