亘

灼熱/灼熱の太陽の亘のレビュー・感想・評価

灼熱/灼熱の太陽(2015年製作の映画)
3.9
「同じ人間なのに!」1991年クロアチア。イェレナとイヴァンはセルビア人とクロアチア人のカップルだった。2人は人目を忍んで付き合っていたが民族対立が2人を苦しめる。この年始まった紛争はその後も人々の恋愛を歪め続けた。

アドリア海沿岸の小さな町を舞台に、1991年・2001年・2011年の3つの時代を生きた3組のクロアチア人・セルビア人の男女を描く群像劇。それぞれの時代を生きる3組に接点はない。共通点は、民族の違いで恋愛が歪んだという点。3組とも人として相手を愛してるはずなのに"民族"が壁を作る。

1991年イェレナとイヴァン:紛争開始直前、2人は街へと逃げる計画を立てる。しかし出発当日、民族対立の高まりから、悲劇が起こる。
サーシャの表情は、「こんなはずではなかった」というような風でそれまでの威圧的な感じとは全く違う。手違いのはずだろうけど、感情で動いてしまった代償は重すぎるし救われない。

2001年ナターシャとアンテ:紛争後ナターシャは母親と故郷に戻り、家の改修を修理屋アンテに依頼する。ナターシャはアンテに惹かれるが、彼は兄を殺したクロアチア人である。彼女は次第に考えを改めるが、ふと民族の話をしてしまう。
"人としての素直な思い"の前に"民族の壁"がたちはだかるナターシャの葛藤は、今作のテーマを最も端的に表していたように思う。アンテへのアプローチはぎこちないし、ふとした話で険悪ムードになってしまう。彼女の中の民族の壁は低くなるけど、消えないようでもどかしかった。

2011年マリヤとルカ:ルカは友人とパーティのために故郷へ戻り、実家を訪れる。しかし彼の本当の目的は元恋人のマリヤと自分の息子に会うことだった。内戦終了から20年近いが2人の間には民族の壁が残っていた。
異民族を認めない親のせいで引き裂かれた2人。ルカは関係を戻したい、マリヤは自分を捨てた彼を受け入れない。若い世代にも暗い影が残っている。ルカの親のせいだから彼が不憫ではあったけど、悪しき考え方がこういう形で残り続けてしまうということなんだと思う。それでも最後の開けっぱなしのドアには希望が見えて少し嬉しかった。

印象に残ったシーン:銃声後に皆が静まるシーン。イェレナが睨みつけるシーン。 ナターシャが妄想して自慰をするシーン;声が漏れないよう押さえてるのも彼女の葛藤を表してるようだった。 ナターシャが兄のことを話すシーン。 ルカがマリヤの家へ戻るシーン。 マリヤがドアを開けっぱなしにするラストシーン。
印象に残ったセリフ:「同じ人間なのに!」

余談
・今作では3つのストーリー全てで同じ俳優・女優がメインの男女を演じています。2人の俳優・女優はどちらもクロアチア出身です。
・クロアチア人とセルビア人かは自己認識の問題で、ほとんど自己申告だったそうです。それが先祖代々伝えられていったそうです。
亘