ルサチマ

コルネイユ=ブレヒトのルサチマのレビュー・感想・評価

コルネイユ=ブレヒト(2009年製作の映画)
5.0
コルネイユとブレヒトのテクストの朗読光景が三度に渡り、それぞれのシチュエーションで異なるオフの音響と天候、服装によって変奏が描かれる。ブレヒトの様々な戯曲の中には繰り返し天候についての言及がなされていることが確認できるが(「夜、大気は菫色だ」、「空の雲行きが怪しいときにはもう神様にお祈りなんてしなくていい」etc)、今作やブレヒトのテクストを題材にした『アンティゴネ』において、異なる時間が画面上のつながりを無視してモンタージュされていくのは原文に即した映画化がなされた実践として見れる。
兎も角、コルネイユによるローマ帝国の政治により殺害された一人の男とその恋人の言葉に耳を傾け、ブレヒトによる裁判への呼びかけに耳を傾けることが説話的な主題にあるとして、彼らの叫びを現代人が映画に記録する場合、台詞を正確に発話するだけではなく、その発話を実現するためのシチュエーションをいかに設定するかが問われなければならない。その問いかけに対して、ユイレの不在とフィルムの不在の中でストローブが導き出したデジタルによる応答がこのような僅か30分程度の映画で、三度にわたるシチュエーションとそのシチュエーションの中で多様なバリエーションの音響、画面の彩りの変化がなされたことには驚愕せざるを得ない。そしてここからストローブが亡くなるまでの間に『ロボットに対抗するフランス』を制作し、映画表現そのものの多様さを失うことなくシチュエーションを削ぎ落としていったことの過酷さに改めてその偉大さを痛感する。
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