YasujiOshiba

ミュートのYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

ミュート(2018年製作の映画)
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ダンカン・ジョーンズの作品はけっこう好きだな。どこに向かうか予想のつかないところがよい。以前に見た『月に囚われた男』(2009)も『ミッション: 8ミニッツ』(2011)も悪くなかった。

この作品のテイストも独特で、なによりも言語のミックス加減がよい。英語にドイツ語なんかが混じりあうスタイルはすごくヨーロッパ的。もちろん『ブレードランナー』を意識しているはずなんだけど、SFというよりも、SF的な背景を借りたブラックなヒューマン・コメディという感じ。

ジョーンズも意識しているみたいだけど、カクタス(ポール・ラッド)とダック(ジャスティン・セロー)のコンビは、ほとんどそのままアルトマンの『マッシュ』(1970)のホークアイ(ドナルド・サザーランド)とデューク(エリオット・グールド)に重なるんだよね。どちらも悪いやろうたちなんだけど、アルトマンの不良軍医たちの場合はヴェトナム戦争へのアンチテーゼという大義をふりかざして暴れまくってくれたわけだけど、ジョーンズの二人の軍医にはもはや戦場にはおらず、帰還兵仲間とつるんで笑える不良アメリカンを超えて、しだいに笑えない存在であることを暴露してゆく。

そんな不良二人組に対して、この映画の大義を体現するのが正事故で声帯をやられたレオであり、娼婦との純愛という古典的な設定。ポイントは純粋さや素朴さ、そして純愛がそれらしく見えなきゃならないってこと。そのあたりはアレクサンダー・スカルスガルドの存在感に助けられて、作品としてまずまずの説得力を持てたんじゃないだろうか。

それにしてもダンカン・ジョーンズって、根っこのところがすごく純なんだと思う。そしてそれは決して悪いことじゃない。
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