フジリソ

何者のフジリソのレビュー・感想・評価

何者(2016年製作の映画)
4.0
男子大学生が就活を通し自身を見つめなおして、等身大の自分を認めて一歩を踏み出していくまでを描いた一作。

自意識に雁字搦めになっている拓人、自分だけの夢を見つけられた光太郎、社会と折りあいをつけた瑞月、恥をかけない隆良、理想の自分に縛り付けられてる理香。

物語は5人の就活生を中心に進み、自身をしっかりと認められた人物から就活を終えていく。一方、話の外側ではギンジという拓人の友人が舞台の世界で何者かになるために奮闘している。

物語を通して自分は何者かに成れるのではないかという根拠のない自信が打ち砕かれ、何者でもない自分を飾り立てていた大き過ぎる自尊心の卑小さが暴かれていくのですが、

これは学生を終えるタイミングで多くの人に訪れる通過儀礼のようなものだと思います。

描かれているのが普遍的なことなので物語で大きな役割を担っている就活やツィッターとはあまり縁がないという人でも刺さる人は刺さると思います。

個人的に印象的だったのは、行動の伴わない隆良と実現に向けて汗を流すギンジを、SNS上での振る舞いだけ取り出して一緒くたにする拓人を先輩が嗜めるシーンでした。思い返すまでもなく思い当たる節がいっぱいです。反省しました。

というか心当たりがいたるところにあったので結構心臓がキュッとなるシーン多かったです。

ただ、意地悪なシーンでも、就活やツィッターに翻弄されながら懸命に生きる若者を揶揄するような意図はなく、作り手達が優しさを持って描いているので嫌悪感が先に立つということはありませんでした。


物語終盤、卵の殻が割られたかのように、むき出しの自分を引きずり出された拓人を他人事には思えず、その姿は痛ましくもあり愛おしくもありました。

そして、ボロボロになりながらも懸命に歩き始めた拓人の先には鮮やかな社会が開かれている。

そんなラストに製作陣の深い愛を感じます。

自分は自分でしかないからそれを認めて自分の定めた方へ一歩ずつ進んでいくしかない。折れそうになった時に見たくなるそんな作品でした。

青春が終わる。人生が始まるー
のコピーも秀逸。
フジリソ

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